マニラのスラムでコンドームの付け方さえ知らない人へ
その人の群れに出席表がぐるぐると回っていて、中には白髪のおばあさんもいた。隣にはテーブルがひとつしつらえられていて、どうやらそこで登録をする仕組みになっており、すでに何人かが名前を書き入れていた。
マイクのスタッフはファミリープランニングの重要性を説いた。男女双方にどのような利点があるのか。政府にまかせるだけでなく、自分たちで知ることが必要だと訴えかけると人々は前向きな声を出したが、話が一回の射精につき精子の数がどのくらいかという話になると急に静まり返り、「ミリオン」だと聞くとまたがやがやした。
いかに彼らが教育に飢えていたのかがよくわかった。みなそれを総じて何かを知りたいのであり、むろん自分たちの生活に役立てたいのだった。
集会の横の施設には壁に派手な原色が塗られ、バランガイの数字が描かれ、「デイケアセンター」と飾り文字で書かれていた。中に入れてもらうと、そこにも数人の女性がいて奥に机が二つ置かれ、看護師らしき人がそれぞれ一人ずついて、次々により詳しい説明をしている様子だった。
が、しばらく見ていると番が終わった女性が一人来て、腕をポパイのようにふくらませて見せた。二の腕に包帯をしていた。中に一本、小さなふくらみの筋があるだろうことは、前日リカーンのオフィスで避妊具をあれこれ見せてもらったからわかっていた。つまり彼女は避妊用のインプラントを入れたばかりなのだ。
マリーシェルというその女性は38才で、すでに10代後半の長男を含め3人の子供があった。
「七年間、ピルを飲んでたけどとても面倒なの。体調も悪くなるし。インプラントなら無料で入れてくれるって言うし、取り出すのも無料だそうだから」
と彼女は晴々と笑った。ロセルの話だと今回はMSFが資金を出しているが、やがてリカーンの医療がフィリピン政府の健康保健の財源でカバーされるようになればと考えているらしかった。
なるほどそういうビジョンを持ったプランなのかと思っていると、今度は看護師の一人が木で出来たペニスを机の上に置いた。女性たちは色めき立ち、明るく恥ずかしそうに笑いながらその後に続く看護師の説明を聞き、なぜかさかんにスマホで写真を撮った。外での断面図の説明とその木で出来たペニスの説明がどう違うのかまるでわからなかったが、とにかくバランガイ220は男性器の話で持ち切りだった。
少しすると、看護師はコンドームを出し始め、木のペニスにつけてみせた。するとすでに子供を抱いていた母親さえ目を丸くしたし、写真を撮る女性たちの中にも手を止めて見入る人が出た。これには俺も驚いた。
彼女たちはコンドームの付け方さえ知らなかったのだ。