最新記事

オーストラリア

オーストラリアの難民政策は「人道に対する罪」、ICCに告発

2017年2月24日(金)18時20分
レベッカ・ハミルトン(米アメリカン大学ロースクール准教授)

今月撮影されたパプアニューギニア・マヌス島の収容施設の様子 Behrouz Boochani-REUTERS

<国外の収容所で難民を虐待するオーストラリア政府の行為に関し、人権弁護士らがICCに訴追を要求。先進国が人道犯罪で国際的に裁かれる最初の例になるかもしれない>

米スタンフォード大学ロースクールの国際人権クリニックは先週、著名な人権弁護士が名を連ねる108ページの報告書を国際刑事裁判所(ICC)に提出した。オーストラリア政府と民間請負業者の「人道に対する罪」を告発し、訴追を促すものだ。

ICCではこれまで、主にアフリカや旧ユーゴスラビアのような途上国における大量虐殺や戦争犯罪を審理してきた。オーストラリア政府や企業が訴追されれば、先進国では初の事例となる。

報告書は、オーストラリアの歴代政権が難民や移民に対する人道犯罪を知りながら放置していたと主張する。被害者側にもし「罪」があるとすれば、迫害から逃れてオーストラリアに保護を求めたことだけだ、と──。

欧米では最近、長い苦労の末に勝ち取った国連難民条約の難民保護規定を放棄しようという動きが目立っている。国家ぐるみの難民虐待をICCに提訴するには今が絶好のタイミングだ。ICCにとっても、自分たちは途上国の犯罪だけを扱うのではなく、先進国の犯罪も裁く意志があると示せる重要な機会だ。

【参考記事】オーストラリアの難民虐待に学びたい?デンマークから視察団

わざと非人道的な環境に

今回問われている人道に対する罪のなかには、拷問や強制退去などが含まれる。いずれも、2001年の9.11テロ後にテロ予防策としてオーストラリアが導入した難民抑制策「パシフィック・ソリューソン(太平洋での解決)」に起因している。

オーストラリア政府は業者に委託し、難民や移民の上陸を船が領海に入る手前で阻止している。海上で捕まえて、そのまま南太平洋の島国ナウルやパプアニューギニアのマヌス島にある収容所に移送しているのだ。領海手前ならまだ入国前、難民条約で規定された保護の責任は負わなくてもいい、という論法だ。

海外の収容所は表向きは民営だが、実質的にはオーストラリア政府は管理している。施設の維持費を負担し、運営方針を定め、民間業者と契約して運営させている。人権団体は収容所ではびこる深刻な暴力と虐待を何度も訴えてきた。だがその非人道的な状態を作り出すことこそが、オーストラリア政府の狙いだという。

【参考記事】難民収容所で問われるオーストラリアの人権感覚

そしてこの犯罪は、政治信条の右や左とは関係なく続いている。オーストラリアの現在の政権与党は中道右派の自由党だが、難民や移民の扱いに関する基本方針は過去10年変わらず、中道左派の労働党政権下でも継続してきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中