難民社会の成功モデル? チベット亡命政府トップ単独インタビュー
チベット亡命政府のロブサン・センゲ首席大臣(左)とダライ・ラマ14世(2012年) Leonhard Foeger-REUTERS
<ダライ・ラマ14世の後継者、ロブサン・センゲ首席大臣が語った、難民社会でありながら民主的な制度を持つ亡命チベット人社会の知られざる一面。単独インタビュー前編>
2017年2月中旬、中央チベット政権(チベット亡命政府)のロブサン・センゲ首席大臣(シキョン)に話を聞いた。
センゲ大臣は1968年生まれの48歳。インドの亡命チベット人社会で生まれ、後にハーバード大学のロースクールに留学。同校の上級研究員を務めた。2011年に全世界の亡命チベット人が参加する選挙によりチベット亡命政府の首席大臣(日本の首相に相当)に選出され、2016年に再選を果たした。
公の政治から引退したダライ・ラマ14世の後を継いだセンゲ大臣は、チベットの自由を求める政治運動のリーダーとして世界各国を訪問している。
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ダライ・ラマ14世は、中国との対話によるチベット問題解決を目指した「中道のアプローチ」を提唱。1974年にチベットの亡命政府と亡命議会によって決議された。「中道のアプローチ」とは、チベットを中華人民共和国の一部として認める一方で、固有の言語や文化、宗教や自然環境を守るために、チベット人による高度な自治を認めるよう中国政府に求めるという方針だ。
チベット問題を平和的な手法で解決しようとする提案は国際社会から高く評価され、ダライ・ラマ14世は1989年にノーベル平和賞を受賞している。
しかし、中道のアプローチの提唱後、ダライ・ラマ14世の特使と中国政府は非公式の会談を複数回にわたり実施したが、進展はなく会談自体も2010年を最後に途絶えている。交渉の行き詰まりに加え、近年チベット人による焼身自殺が相次ぐなど人権状況が悪化、チベット問題は解決の糸口すら見えない状況に追いやられている。
センゲ大臣は、今回が主席大臣就任以来3回目の日本訪問だ。何のために来日したのか、その目的を聞いた。
センゲ大臣:
「チベットの状況について、政府と民間レベルの双方に関心を促すことと、中道のアプローチについて支持を求めるためです。中国政府との間で以前から続けられている人権問題に関する対話は効果を上げていないと感じています。中国政府は常に「水面下で、非公開で対話を」と何十年も言い続けていますが、まったく実効性がないものです。
チベットは特にそうですが、中国全体の人権状況も悪化しています。諸外国は中国と人権問題に関する(非公開の)対話を何十年も続けてきました。「中国はメンツを気にする。だから非公開での対話ならば人権状況は改善する」との考えでしたが、現実は変化していません。
チベット内部で起きていることや中国の人権状況について、(公の場で)率直に遠慮なく語ってほしいと各国政府、国際社会の人々に望んでいます。中国との人権対話を静かに進めるだけでなく、これからはもっと公開の場でも行われるべきです」