最新記事

BOOKS

部下を潰しながら出世する「クラッシャー上司」の実態

2017年2月13日(月)20時40分
印南敦史(作家、書評家)

つまり、クラッシャー上司の家庭は実質的に崩壊していることが多く、『岸辺のアルバム』はいち早く、そんなクラッシャーの家庭の病理を先取りしていたというのだ。

ところで現実的に、クラッシャーを上司に持ってしまった人はどうすればよいのか? 誰しも気になるはずであるこの点については、第四章であらゆる策が講じられる。

個人的には、「有意味感(情緒的余裕)」「全体把握感(認知の柔軟性)」「経験的処理可能感(情緒的共感処理)」という3つの感覚で構成されるSOC(Sense of Coherence)が重要なキードードになるという項目にもっとも共感した。

簡単にいえば、どんなことにもなんらかの意味を見出し、時系列(プロセス)を見通せる感覚を持ち、過去の成功体験に基づいて「ここまではできるはず」と確信できるようになるということ。それらを備えていれば、クラッシャー上司の理不尽なやり口にも対応できるという。

また、「クラッシャー上司を理解する」「自分の弱い面をさらす」「マニュアル作りをする」「マイナスの感情を見せてはならない」など細かなメソッドも紹介されているだけに、クラッシャー上司と対峙している人にとって、本書は実用的な価値も持つことになるだろう。

蛇足ながら、帯に書かれている「『自分は正しい』と確信し、心を攻撃する人の精神構造」というフレーズには、少しだけ足りないものがあるようにも感じた。わざわざ確信するまでもなく、「自分が正しい」ことは当然のことであると信じて疑わない(だから確信する必要もない)。それこそがクラッシャー上司の本質ではないかと感じるのだ。思い当たる人は、どこのオフィスにもいるのではないだろうか?

いずれにしても、クラッシャー上司の存在は組織内の問題というだけでなく、社会全体として考えていかなくてはならないことでもあるはずだ。そういう意味でも、本書を通じて「なにを、どうしたらいいのか」を個々が考えていくべきだろう。


『クラッシャー上司――平気で部下を追い詰める人たち』
 松崎一葉 著
 PHP新書

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「Suzie」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、多方面で活躍中。2月26日に新刊『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)を上梓。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中