最新記事

米外交

日米同盟をトランプから守るため、マティス国防長官はやって来た

2017年2月9日(木)10時20分
ロバート・E・ケリー(本誌コラムニスト)

マティス(右)は東京で日本との固い絆を確認したが…… Toru Hanai-REUTERS

<マティス米国防長官のアジア歴訪はトランプ外交に対してクギを刺したい米外交界主流派の意向の表れだ>

今月、マティス米国防長官が日本と韓国を訪問した。前大統領と異なる政党の新大統領が就任すれば、早々に高官が同盟国を訪ねるのは珍しいことではない。新政権としても、同盟国の高官と早く会っておきたい。

これが普通の政権交代なら、マティスの日韓歴訪は地味なニュースとして扱われたかもしれない。普天間問題などはあるにせよ、オバマ前政権下でアジアの同盟国との関係はおおむね良好な状態にあったからだ。

しかし、今回の新政権発足は普通の政権交代ではない。トランプ大統領は就任わずか半月ほどの間に、イギリス、メキシコ、オーストラリアといった緊密なパートナーとの関係をとげとげしいものにしてしまった。こうした文化的に近い国々に怒りをぶつけているトランプが、日本と韓国のように文化の違いが大きい同盟国との摩擦や意見対立にどう対応するかは大きな不安材料だ。

日本と韓国がマティスに最も尋ねたかった問いは、中国や北朝鮮についてではなく、新大統領自身についてだったに違いない。トランプは本気であんな発言を繰り返しているのか? 同盟関係に基づく防衛をこれまでどおり当てにしていいのか?

マティスはこの点をよく理解していたようだ。訪問時に、日本と韓国を安心させる力強い言葉を述べている。

【参考記事】マティス米国防相がまともでもトランプにはまだ要注意

米中戦争に備えた動き?

これまでの同盟関係から言えば当たり前の内容だが、マティスの一連の発言にはもう1つの目的もあったのかもしれない。それは、トランプの手足を縛ることだ。マティスのように尊敬されている高官が公の場で発言した後、トランプがツイッターや電話で日韓にかみつくようなことがあれば、アメリカの信頼が大きく傷つきかねない。

マティスの発言は日韓との固い絆を維持し、トランプが口を挟んできても譲らないという意思表示にも思える。東京では、日本と「100%肩を並べて、歩みを共にする」と表明。韓国でも、もし北朝鮮が核兵器を用いれば「効力のある圧倒的な」報復で応じると明言している。

トランプが就任後ほかの同盟国を厳しく批判しているなかで、新国防長官が日韓との連携を大切にする姿勢を示している背景には、ほかの要因もあるのかもしれない。それは対中関係だ。

トランプの側近たちは、歴代政権ではなかったくらい中国に関して攻撃的な発言をしている。バノン首席戦略官・上級顧問も昨年3月、「5~10年以内に南シナ海で」米中戦争が起きることは「間違いない」と述べていた。そればかりか、トランプは昨年12月に台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と電話会談するなど、中国政府の神経を逆なでする行動を取っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 5

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中