トランプ大統領への「手土産」日米雇用イニシアチブ、どこまで有効か
この点に関連し、アジア開発銀行研究所の吉野直行所長は、ある手法を提案している。インフラ建設による活性化で増えた地方税収の2割程度を、投資家に還元するシステムだ。吉野所長は、トランプ政権にも影響力を持つCSIS(米戦略国際問題研究所)に対し、投資利回りが16─30%強上がった実証例も含めた提案をしている。
日本の民間金融機関にも、特定のインフラ事業向けのファンドパッケージを投資家に販売し、政府の「イニシアチブ」により、小口のファンドをとりまとめて大規模化する手法に期待する声もある。
運用難の地方金融機関などが歓迎するとみられ、相当規模の資金を米側に提供できる仕組みも可能となりそうだ。
経済効果に冷ややかな分析
一方で、トランプ大統領が選挙中に示してきたインフラ投資計画への期待は、足元で後退している。
UBS証券が今年1月末に米国で発表したリポートでは「インフラ投資計画の優先度・実現度は、低いないしは中程度。規模も大統領が掲げる10年間で1兆ドルの半分以下にとどまり、経済効果もわずか」との見方を示している。
それ以外にも、いくつかの問題点がある。1つは財源問題だ。米シンクタンク・Tax Policy Centerの試算によれば、法人税減税の15%への引き下げ実施だけで、10年間で6.1兆ドルの税収減となる。
さらに10年間で1兆ドルのインフラ投資を財政で賄うことは「均衡財政を主張する共和党の理解が得られそうにない」と、野村総研の井上氏は指摘する。
経済効果発揮までのリードタイムの長さが障害になるとの指摘もある。米議会予算局がオバマ政権の「アメリカ復興・再投資プラン」を対象に検証したところ、財政投入までに2、3年かかったケースが多かった。
州政府の管理コスト削減のため 支払いが遅れがちになった州が複数あったり、環境アセスメントに時間がかかってたことなどが、同予算局のリポートで指摘されている。
トランプ大統領は、いまだにインフラ投資の具体的案件や優先順位を明示しておらず、実際の着工までにかなりの時間がかかりそうだ。仮に大統領1期目の任期中に経済効果が出てこないようだと、大統領の威信にも影響が出かねないとの声も、一部の東京市場関係者から出ている。
日米首脳会談で日本提案のイニシアチブ採用で一致したとしても、実際にどの程度の経済効果が出てくるのか、不透明な要因が山積みになっている。
(中川泉 編集:田巻一彦)