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「Kickstarter出版」 の評価と可能性:1億ドルの実績

2017年2月17日(金)17時45分
鎌田博樹(EBook2.0 Magazine)

PavelKriuchkov-iStock

<クラウド・ファンディングの「Kickstarter」で書籍・コミックを出版する「Kickstarter出版」が、存在感を増している。その評価と可能性、そして出版ビジネスの今後を考える>

2009年に登場したクラウド・ファンディングKickstarterが、米国の出版プロジェクトに定着したことを示す数字が、Good eReader (02/07)で紹介された。昨年、書籍出版では5,617件の募集に対して目標金額に達したのが32.6%、2,054万1,000ドル。コミックでは1,087件中58.7%で1,256万3,000ドル。募金額は優に1億ドルを超えた。

成功の要因:キャンペーン・オーガナイザー

2015年と比べて若干の減少はあったものの、1,800件を超える書籍出版と600件以上のコミック出版プロジェクトを成立させた。1件あたり4.1万ドル。Kickstarterの成立プロジェクトにおける書籍・コミックの割合は、2015年で13%を占めた。調達の成功率が3件に1件、金額が4万ドルあまり、ということはインディーズ作家や小出版社にとっては(中堅出版社にとっても)まず考慮すべき金融チャネルになったということが出来る。

Kickstarter は出版に力を入れており、有能な出版経験者をキャンペーン・オーガナイザーとして起用している。出版プロジェクトは、出版(物)の意義と魅力を効果的に訴求することで成立するもので、米国の商業出版では専門のパブリシストが計画を立案し、現場の指揮を執る。一般書籍担当のマーゴット・アトウェル (Margot Atwell, Publishing Director)、マリス・クライツマン (Maris Kreizman)、コミック担当のジェイミー・タナー(Jamie Tanner)は、様々な立場で出版プロジェクトに関わった経験を持ち、この仕事を知悉している。目標の達成率と募金総額は、オーガナイザーのパフォーマンスを表すものだ。

本質は「ソーシャル出版」

企画あるいは原稿が完成していない段階から起算すると、出版プロジェクトに要する資金は、(1)著者の生活費、(2)生産・流通・販促コストに分けられる。米国では、前者を前渡金でカバーすることになっているが、最近では中堅以下の作家には前渡金は払われなくなってきているようだ。プロの著者が自主出版を選択する理由の第一は、少なくとも出版(通常は契約から2年以内)まではキャッシュを手にできないことが背景にある。E-Book(電子書籍)を自主出版すれば、最短で1ヵ月ほどで売れた金額の7割あまりが入金される。E-Bookの編集・制作・流通コストは可変的(極限まで切り詰められる)あるいは課金制なので、必然的にデジタル・ファーストに傾く。

Kickstarter を使う場合は、ほとんど印刷本の出版が前提となり、編集・制作にもお金が懸けられる。あるいはそれをセールスポイントにして基金を募ることになる。マーケティングにも手を回せるので、書店での販売にも力を入れることが出来る。出版ビジネスのベテランで"Kickstarter出版"を指導しているマーゴット・アトウェル (Margot Atwell)は、これが「編集者、出版社、パブリシスト」を置換えるものではなく、たんに著者や出版社が彼らの本について読者に伝える機会を増やすものだ。」と控え目に述べている。しかし、1億ドルという実績は、これを出版プラットフォームと勘違いさせるほどの実績だ。出版ビジネスに与えた影響は少なくない。

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