トランプ政権が貿易不均衡でドイツに宣戦布告、狙いはEU潰しか
ドイツの爆弾は内政にある。スイスの中央銀行は、スイスフラン高を止めるために海外の資産(大半はユーロ諸国の国債)を買った。中国が米国債を買うのと似たようなものだ。ドイツもユーロ圏で同じことをした。ドイツの中央銀行はユーロに加盟する17カ国の中央銀行間の決済システム「ターゲット2」を通じて南欧諸国に対する債権を買った。2016年末のその額は7540億ユーロに上り、ユーロ危機がピークだった2012年8月より多い。もしユーロが崩壊すれば、それはすべてドイツの納税者の負担になる。
ドイツの対外債権はドイツ政府が意図したものではない。ECB(欧州中央銀行)が景気刺激のための量的緩和を実施した結果だ。量的緩和はもともと南欧諸国の債務危機やアメリカの信用危機の衝撃を和らげるために行われた。ユーロを救うためだ。ドイツの南欧向け債権が増えたのは、ドイツ政府や中央銀行の考えというよりは、ターゲット2にもともとそういうシステムが組み込まれていたせいだ。
メルケルの弱み突く
ナバロの批判が効果的だったのは、ドイツの政治的な弱みを突いているからだ。ドイツの南欧向け債権の増加は、中国にとっての米国債やスイスにとってのユーロ債のように公明正大なものではなく、国民にも不人気だ。一般のドイツ人が心配しているのは、輸出が好調過ぎることではなく、経常黒字で買った資産で大損しているのではないか、ということだ。アメリカのサブプライムローン(信用度の低い個人向け住宅融資)債権や債務危機に陥ったギリシャやスペインの国債を大量に持っているのではないか。ドイツの納税者の目の前には、多額の請求書がぶら下がっているかもしれないのだ。ユーロが崩壊すれば、そのツケを支払わなければならない。
実際、アメリカからの批判はてきめんにドイツの内政に影響し、9月に連邦議会選挙を控えたアンゲラ・メルケル首相は、次の首相候補の支持率でライバルにで大きく逆転された。選挙の主な争点は2つ、ユーロと難民だ。駐EUアメリカ大使候補のテッド・マロックは、ユーロは崩壊すると思うので空売りしたい、と言った。
ユーロが崩壊したら何が起こるのだろう? ヨーロッパはアメリカにとって政治的・経済的な競争相手ではなくなる。域内諸国の古い対立意識が噴き出して不安定化もするだろう。アメリカは最近まで、ヨーロッパを不安定な世界における安定の軸とみなしてきた。だがトランプ政権のビジョンでは、政治的にも経済的にも不安定なヨーロッパが望ましいのだ。最後にはヨーロッパは分断され、ドナルド・トランプのアメリカそっくりになるだろう。