トランプ時代に『24』が帰ってきた
ヒーローは白人から黒人に交替。主人公カーターを演じるホーキンス (c) 2017 Fox and its related entities. All rights reserved.
<キャストを一新して放送が始まった新シリーズは、テロと拷問と移民と人権について何を語るのか>
FOXで放送が始まった新ドラマ『24:レガシー』(日本ではFOXチャンネルで毎週火曜よる9時放送中)にとっては、ヒラリー・クリントンがアメリカ大統領になっていたほうが好都合だっただろう。
勇敢にテロリストからアメリカを守る捜査官ジャック・バウアー(キーファー・サザーランド)の活躍を描いた緊迫のドラマ『24−TWENTY FOUR−』とその続編が放送を終了して3年近く。コーリー・ ホーキンス演じる陸軍特殊部隊員エリック・カーターを主人公に、大ヒットドラマが帰ってきた。
もしクリントンが大統領になっていれば、話題の娯楽作になっていたはず。しかし、ドナルド・トランプ大統領が誕生し、状況が変わってしまった。『レガシー』は、制作者サイドが意図した以上に物議を醸す作品になりそうだ。
01~10年に放送された『24』は、当時のブッシュ政権がテロ容疑者に行っていたような過酷な拷問を「宣伝」する内容とも言えた。厳しい時間的制約の中で問題を解決しなくてはならないジャックとテロ対策ユニット(CTU)のメンバーは、当たり前のように肉体的・精神的な拷問を行い、いつも質の高い情報を入手していた。
特に初期の『24』は、01年の9・11テロ直後のアメリカ人の不安をあおり、同時にその不安をなだめることで多くの視聴者を獲得していた。国民の安全を守るために手段を選ばない強いヒーローは、国民を安心させてくれた。『24』は拷問を正当化するだけでなく、アメリカ人にそれを支持させたのだ。
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トランプ政権が落とす影
09年からのオバマ政権時代に、ブッシュ政権流の非倫理的で効果の乏しい残忍な拷問手法の多くは禁止されたり、使用されなくなったりした。拷問の是非をめぐる議論も沈静化していた。
しかし今年1月、拷問には「絶対に」効果があると言い切る男がホワイトハウスの主になった。トランプのテレビ番組の好みを考えると、そのような確信を抱くに至ったのは、『24』で効果を目の当たりにしたからだったのかもしれない。
トランプ政権がイスラム圏7カ国の国民の入国一時停止を打ち出して国内外で大論争に発展したことは、始まったばかりの新ドラマにも大きな影を落とす。テロ組織がアメリカ国内でテロ分子を動かすというドラマのストーリーは、手に汗握る設定というより、国民の恐怖心をあおる内容と批判されるだろう。
『レガシー』は拷問のシーンで始まる。カーター率いる陸軍特殊部隊のチームは半年前、中東のイエメンでテロ組織の親玉イブラヒム・ビンハリドの隠れ家を襲って殺害した(アルカイダのウサマ・ビンラディンを仕留めた海軍特殊部隊SEALsのイメージだ)。
このときの隊員たちがアメリカでテロ組織に次々と襲われ、残忍な拷問を受けるのだ。テロリストの狙いは、奪われた金庫の奪還だ。