最新記事

企業

ロボット化する社員が企業の倫理的問題を招く

2017年1月19日(木)19時08分
ピーター・ネビル・ルイス ※編集・企画:情報工場

「何をしてよく、何をしてはいけないか。それを雇用者に示すのにあらかじめ決められた規則のみに頼る経営者が多すぎます」と、チャータード・マネジメント協会(CMI)会長のアン・フランケ氏は言う。「その結果どうなると思いますか? 誰もがロボットのように働くようになります。規則の一言一句を言い訳にして、自分の心と頭を使って判断することをしなくなるのです。私たちは、自分の行動が他者にどんな影響を及ぼすか、もっと気にかけた方がいいでしょう」

 ルールやフレームワークだけでは不十分なのはなぜか。どうして思いやりや臨機応変の判断力、EQ(心の知能指数)の応用などが重要なのか。フランケ氏は言う。「組織が成功するには、顧客や従業員、サプライヤーなどのステークホルダーのニーズを満たさなければなりません。マネジャーやリーダーたちの価値観や行動が、そうしたステークホルダーたちと共鳴しなければ、彼らを満足させたり、従業員から最大の能力を引き出す経営はできません。つまり失敗する運命にあるのです」

社員の二重人格がどんな悪影響をもたらすか

 紀元50年頃(帝政期ローマ時代)に活躍した政治家・歴史家のタキトゥスは、「ルールが多くなるほど、国家は堕落する」という警句を残した。この言葉は21世紀の企業に対する警告でもある。確固たる価値観に基づくよりも画一的なルールを守ることに重きをおいた管理職たちの行動は、企業のリスクマネジメントにもかかわる。しっかりとしたリスクマネジメントは、あらゆる業種で成功の決定的な要因とみなされている。

 我々の主要なクライアント2社の経営幹部たちのMDNAに対する反応に、このことに関する懸念が現れていた。彼らは疑問を持っていた。従業員たちが職場に"本当の自分"を持ち込まなかったとすると、そのことが彼らのリスクテイクにどのように影響するのか、と。

 ルールに従うことを要求されると、従業員たちは上からの指示以外の判断をしなくなるのではないだろうか? ルールというものは「これをしてはいけない」とは伝えられるが、「こうすべきだ」とわからせることはできないからだ。

 我々はクライアントに対し、奴隷のようなルールの遵守が、いかに従業員たちに悪影響を及ぼし、問題を発生させるのかを証明してきた。そして彼らに「では、何をするのが正しいと思うか」と尋ねると、ほとんどの経営幹部は罠にはまった。次の3つの質問に答えてみてほしい。

・自分はビジネスにおいて正しい行動をしているか?(100%確信があるか)
・それを正しいやり方で行っているか?(仕事についてどのくらい確実にリスクを管理し、倫理基準を守っているか?)
・それを正しい目的で行っているか?(その仕事をする資格があると自信を持って言えるか?)

 あなたはこれらすべてに、条件付きにしろ「イエス」と答えられるかもしれない。だが、それで十分だろうか? そうとは限らないだろう。我々がクライアントとのセッションで次のような例を挙げたときの彼らのショックを想像してみてほしい。

【参考記事】日本の会社はなぜ「ブラック企業」になるのか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中