南シナ海の人工島封鎖で米中衝突が現実に?
だが、最終的には中国は南沙諸島の北西に位置するスカボロー礁にもう一つの巨大な基地を作るつもりではないかと疑う専門家もいる。スカボロー礁は、フィリピンに米軍基地があった1990年代前半までフィリピンの管理下にあったが、2012年4月からは中国船が睨みをきかせている。ジョン・マケイン米上院議員(共和党)は、中国が南シナ海トライアングルの第3の拠点としてスカボロー礁を実効支配し埋め立てるつもりだと確信している。南沙諸島とパラセル諸島(西沙諸島)に作った前哨基地と3角形を構成するスカボロー礁を手に入れれば、南シナ海という戦略的に重要な海域を容易に支配することができる。
【参考記事】中国、次は第二列島線!――遼寧の台湾一周もその一環
米政府は昨年前半、中国に、スカボロー礁の埋め立ては武力を使ってでも阻止する用意があるとはっきり伝えたらしいといわれる。米艦船や航空機を南シナ海に派遣するとともにフィリピンの軍事基地にも待機させて本気度を示したという。だとすれば、ティラーソンはその政策を継続し、スカボロー礁へのアクセスを禁じることで基地建設を止ようとしたのかもしれない。
だがおそらくティラーソンは、既にある7つの人工島すべてを指していた可能性が強い。アメリカ海軍大学校のジェームズ・クラスカ教授(国際法)の米下院軍事委員会での証言によると、封鎖に法的な問題ないという。彼の意見では、人工島を軍事拠点化する中国に対しアメリカは法的な対抗措置をとることができるし、むしろやるべきだという。中国に海洋法条約と国際慣習法を守らせるためだ。
「力による平和」必要
国際法を守るということは即ち、昨年6月に出た仲裁裁判所の判決に従わせるということだ。判決では、中国が南シナ海に主張する領有権に根拠はないとした。だとすれば中国は南シナ海で船の往来を管理したり、水産資源や鉱物資源を支配することはできなくなる。中国の大きな基地がある南沙諸島のリード堆から遠くない地点でフィリピンが資源を採取することにも同意しなければならないし、インドネシアのナツナ諸島近くで暴れている中国漁船も取り締まらなければならなくなる。何より、南シナ海での米海軍艦の航行の自由や情報収集を妨げることはできなくなる。
人工島封鎖作戦は、これまでトランプ陣営が明らかにしてきた対中戦略ともつじつまが合う。昨年11月、トランプの政策アドバイザーを務めたアレキサンダー・グレイ(海軍の専門家)とピーター・ナバロ(トランプの国家通商会議トップに就任予定)が連名で米紙「フォーリン・ポリシー」に寄稿し、アジア外交には「力による平和」が必要だと訴えた。トランプの上級顧問(安全保障担当)を務めるジェームズ・ウールジー元CIA長官は、「アジアの現状を力ずくでは変えようとしないと中国が約束すれば、アメリカは中国の政治・社会システムを受け入れ、それを妨害するようなまねは一切しないと保証する」用意があると示唆した。ここでいう「現状を尊重する」という考え方には、中国が「新たな岩礁の埋め立てや軍事拠点化を進めようとしない」という意味も含まれるだろう。