最新記事

日本社会

ジャニーズと戦後日本のメディア・家族(後編)

2016年12月29日(木)11時03分
周東美材(東京大学大学院情報学環特任助教)※アステイオン85より転載

「未熟さ」の上演

〈ジャニーズ〉は、プロフェッショナルらしからぬ「未熟さ」を、自らのパフォーマンスにしばしば意識的に取り入れていた。〈ジャニーズ〉が芸能界のなかで革新的だったのは、歌って踊る少年グループとして売り出されたことだったが、それに加えて、どことなくアマチュア性のあるグループだったことである。日刊スポーツ新聞文化部の広瀬勝は、デビューから一年後の一九六五年八月に開催されたコンサートのパンフレットのなかで、「芸能界の新勢力ジャニーズ」として、〈ジャニーズ〉を次のように紹介している。


 ユニークなチームだ。ボーカル・グループとしてなら彼らよりずっといいのがあるし、カワイコちゃんとしてなら舟木一夫や久保浩もいる。だがそれにリズム、つまり身体ごと動きだすダイナミズムが加わったグループとなるとジャニーズしかいない。芸能界のまったく新しい勢力だといえる。(略)

 ジャニーズには清潔感がある。仕事を、授業が終わる午後三時以後にきめ、休みでないと地方には出ない、といった、学生と芸能人との区別をはっきりつけているあたりにもそれが感じられる。「クラブ活動のような気持でいろんなものを吸収していきたい」という彼らの言葉は、プロ意識の有無とは関係のない、もっと若々しいバイタリティをみせる。(『コマ・喜劇――夏の踊り/青春大騒動』梅田コマ・スタジアム、一九六五年八月)

〈ジャニーズ〉は、デューク・エイセスのようなボーカル・グループとは違うし、舟木一夫・西郷輝彦・橋幸夫の「御三家」とも違う、歌って踊る少年グループだった)(4) 。しかも、彼らは、学校にしっかり通っていることが強調され、「クラブ活動」の感覚で芸能活動を展開していたことに独自性があった。

 学生であり、芸能人でもあるような二面性は、プロに徹していないとの批判を呼んだ(和泉一九七六:五二)。ジャニー喜多川自身も、彼らの公演は「学芸会みたいだと言われた」と述べているが、それはテレビ時代には必ずしも欠点とはならなかった。〈ジャニーズ〉にインタビューした作家の平岩弓枝は、彼らはなまじっか中流の家庭に育っているために芸能人としての必死さがなく、その人気は「素人っぽいところにある」と指摘した(平岩弓枝・ジャニーズ「若さの魅力ジャニーズ」『マドモアゼル』一九六五年一一月)。

 ジャニー喜多川は、学生らしいアマチュア性を前面に打ち出し、既存の芸能界の常識を打ち破り、テレビ時代の新勢力を築こうとした。このような学生像は、たとえば十年ほど前の「太陽族」の学生像とも、安保闘争で話題をさらった唐牛健太郎のような学生像とも、根本的に異なっていた。「未熟さ」を上演していくうえで、ジャニー喜多川がこだわったのは「少年らしさ」であった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中