最新記事

東南アジア

ジャカルタ州知事選に乗じる政治・社会の混乱とテロに苦悩するインドネシア

2016年12月22日(木)19時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

 アホックがスマトラの小さな島の出身者で中華系インドネシア人、キリスト教徒であることから、国民の多数を占めるイスラム教徒の潜在的な反キリスト教心情、インドネシア人の反中国系感情、ジャワ島出身者の地方出身者への差別感情などをフルに利用して煽りたてる急進派イスラム集団のアホック攻撃が今回の騒動のそもそもの発端だった。アホックの対立候補として息子が出馬しているユドヨノ元大統領や対立候補支持政党を率いるスハルト元大統領の女婿、プラボゥオ党首らの政治勢力がこうした知事選の「異例の盛り上がり」に便乗して「アホック知事の支持政党で与党の闘争民主党」さらに「闘争民主党出身のジョコ・ウィドド現大統領」に揺さぶりをかけることで混乱が複雑化しているのだ。

相次ぐテロやテロ未遂

 こうした騒然とした雰囲気の中で12月21日のテロ摘発事件は起きた。射殺されたテロ容疑者は、12月10日に実行前日という際どいタイミングでやはり未然に防がれたジャカルタ中心部の大統領官邸(イスタナ)での爆弾テロ未遂事件で逮捕された容疑者らの関連捜査で浮かび上がったという。そしてこのテロ容疑者らは今年1月14日に起きた爆弾テロ事件と同じく中東のテロ組織ISIS(自称イスラム国)と関連がある人物から資金提供を受けるなどテロネットワークの存在を浮かび上がらせている。

 飽和状態にあるインドネシアの各地の刑務所に収監されているテロ関連服役囚が刑務所内でのイスラム教の礼拝や各種行事を通じてメンバーをリクルートし、出所後に訓練や爆弾製造方法を教育してテロ実行犯に仕立てていくという「テロリストの温床化」が指摘されるなど、テロ問題はまさに「今そこにある危機」となっている。

 そうした厳しい局面の中で続くジャカルタ知事選の選挙運動と最有力候補者の裁判。12月20日の2回目の公判で被告アホックに対し検察は選挙運動に「コーランを利用して有権者を惑わした」と主張。裁判所前ではアホック支持派と反アホック派がにらみ合った。アホック支持派には選挙区ジャカルタの一般市民が多数含まれているのに対し、アホックの即時逮捕を訴える反知事派は選挙区外の地方から交通費や日当をもらって参加しているイスラム教徒が多数含まれている、といわれている。

 つまり「純粋は選挙運動ではなく、アホック候補を潰そうとする政治勢力による動員という政争に利用されているのが実態」(地元紙記者)というのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中