最新記事

言論

百田尚樹氏の発言は本当に「ヘイトスピーチ」なのか?~ヘイトを生む「保守」の構造~

2016年12月2日(金)15時40分
古谷経衡(文筆家)

 しかし、そういった「異形」に比べて「まだマシ」なのだから良い、で済んでしまうお話なのだろうか? 恐らく今回、千葉県警が現段階(11月28日)で犯人らの本名を発表しないのは、国籍ではなくてこの手の犯罪につきものの、犯状特有の因があるからであろう。しかし、県警が将来犯人らの名前を公開し、その氏名が純粋和風のものであったとしても、「(在日コリアンからの)帰化人だ」「通名である」などと、またも「犯罪者=在日コリアン説」がふって沸くことは、火を見るよりも明らかである。

 単に「思い付き」を述べた百田氏に非はあるのは否めないとしても、私はなぜ、百田氏のような高名な作家が、2002年ごろから勃興してきたいわゆる「ネット右翼」界隈で定説となった「犯罪者=在日コリアン説」を垂直的にトレースするのか、の方に興味がある。なぜなら重大犯罪の逮捕者が出るたび、その氏名が公表されようとされるまいと、「犯罪者=在日コリアン説」は百田氏以外の「保守系言論人」の中にも根強く存在し、それを支持する無数の「ネット右翼」の中で動かしがたい定説になっているからだ。

(筆者注*例えば、元航空幕僚長の田母神俊雄氏がISISに拉致されたジャーナリストの後藤健二氏[後に殺害]を在日ではないかと発言したことや、「日本には韓国人の売春婦がウヨウヨいる」と発言して当時の日本維新の会から除名された西村真吾衆議院議員など。後藤さんは犯罪者ではないが、世間を悪い意味で騒がせたという文脈の中で、田母神の世界観の中では犯罪者のように語られていた)

 なぜ「犯罪者=在日コリアン説」はここまで広がったのだろうか?

繰り返されてきた「犯罪者=在日コリアン説」の遠因

 一言でいえばそれは、「日本人なら犯罪など犯さないはずだ」という、「美徳信仰」ともいうべき、まったく科学(統計)的根拠のない「似非神話」に基づいている。「日本人なら犯罪など犯さないはずだ」という思い込みの根本は、「日本人は高潔で、慎み深く、お互いに助け合う精神を持っている」という、根拠なき日本人礼賛の精神が存在する。

 ではこの根拠なき日本人礼賛の精神はどこから来たのかというと、これは元来、いわゆる「保守論壇」が特有に持つ内向きの理屈に由来する。インターネットが普及する以前、この国の「保守論壇」は冷戦時代の「反共保守」が中心となり、そしてそれを支える支持者もまた著しく高齢化していた(現在もあまり変わらないが)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ首都に今年最大規模の攻撃、8人死亡・70

ワールド

ロシア前国防相、西側侵略なら核使用の権利留保と表明

ビジネス

富士通、今期営業益35%増を予想 関税影響「善しあ

ビジネス

訂正日銀、追加利上げ先送りの可能性 米関税巡る不透
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中