仕事のグチをこぼす相手すらいない40代男性は珍しくない
繊維商社に勤める保さん(41歳)は、40歳のとき、課長に昇進。しかし、順調な出世の反面、社内外の人間関係が変わってしまったことを嘆いていた。社内外を問わず、課長という立場をいい意味でも悪い意味でも尊重され、気軽に声をかけられなくなったのだ。
保さんは、「仕事は少しやりやすくなったけど、周りに人がいなくなりました。休憩室で顔を合わせてもすぐに逃げられるので、気を許せるのは会社の近くにある喫茶店のマスターだけ。社員とは仕事の話しかしませんね」と自嘲気味に話していた。仕事以外の会話がなくなるにつれて、笑顔も減り、険しい顔の印象が強くなり、ますます周囲から声をかけられにくくなってしまうのが、何とも悲しい。
昇進すれば、給料が上がり、仕事がしやすくなるかもしれないが、反比例するように、社内外の気軽なコミュニケーションは悲しいほど減っていく。もしあなたの話で、部下や取引先の人が笑っていたとしても、それは「楽しいからではない」ことは、薄々分かっているのではないか。そうした苦い時間を経て、また無口の時間が増え、ストレスはたまっていく。
しかし、絶望的な孤独に思える、こんなときこそチャンスが潜んでいる。それに気づいて、成功を収めた人のエピソードを紹介しよう。
機械工具メーカーに勤める義徳さん(43歳)は、営業3課のリーダー。営業成績を上げるために、毎日6人の部下たちを叱咤激励している。しかし、就任当時にはじめた課の飲み会はわずか3回で自然消滅したほか、喫煙所での会話もなくなるなど、部下たちは明らかに義徳さんを避けるようになっていた。寂しさを感じた義徳さんは、部下たちに取り入ろうと下手に出るが、ランチの誘いすらかわされて実現できず......。
そこで義徳さんが目を向けたのは、同じ部署の部長(54歳)。「部下たちから孤立してしまって」と素直に打ち明けると、「やっぱりそうか」と笑顔で受け入れてくれたという。仕事では注意を受けることも多いが、仕事帰りの居酒屋では「バカ話で友人同士のように盛り上がる」。また、野球という共通の趣味があり、「休日にプロ野球観戦へ行く」ほか、「部長が家庭の悩みを相談してくれる」のだから、役職を超えた関係であることは間違いない。
義徳さんと部長の関係は、言わば、映画『釣りバカ日誌』のハマちゃんとスーさんのようなもの。ハマちゃんのように、「人なつっこく、遠慮しすぎずに上司と接することが、改善策になった」というケースは意外に多い。義徳さんが課のリーダーになって話し相手が減った以上に、上役の人々は孤独な日々を送っている。管理職同士、あるいは、気軽に話せる相手が少ない社員同士が分かり合えるのは、ごく自然なことであり、仕事以外のくだらない話をするだけで、お互いにとって貴重な存在になりえるのだ。