最新記事

日本社会

仕事のグチをこぼす相手すらいない40代男性は珍しくない

2016年12月25日(日)16時06分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部


 繊維商社に勤める保さん(41歳)は、40歳のとき、課長に昇進。しかし、順調な出世の反面、社内外の人間関係が変わってしまったことを嘆いていた。社内外を問わず、課長という立場をいい意味でも悪い意味でも尊重され、気軽に声をかけられなくなったのだ。

 保さんは、「仕事は少しやりやすくなったけど、周りに人がいなくなりました。休憩室で顔を合わせてもすぐに逃げられるので、気を許せるのは会社の近くにある喫茶店のマスターだけ。社員とは仕事の話しかしませんね」と自嘲気味に話していた。仕事以外の会話がなくなるにつれて、笑顔も減り、険しい顔の印象が強くなり、ますます周囲から声をかけられにくくなってしまうのが、何とも悲しい。

 昇進すれば、給料が上がり、仕事がしやすくなるかもしれないが、反比例するように、社内外の気軽なコミュニケーションは悲しいほど減っていく。もしあなたの話で、部下や取引先の人が笑っていたとしても、それは「楽しいからではない」ことは、薄々分かっているのではないか。そうした苦い時間を経て、また無口の時間が増え、ストレスはたまっていく。

 しかし、絶望的な孤独に思える、こんなときこそチャンスが潜んでいる。それに気づいて、成功を収めた人のエピソードを紹介しよう。


 機械工具メーカーに勤める義徳さん(43歳)は、営業3課のリーダー。営業成績を上げるために、毎日6人の部下たちを叱咤激励している。しかし、就任当時にはじめた課の飲み会はわずか3回で自然消滅したほか、喫煙所での会話もなくなるなど、部下たちは明らかに義徳さんを避けるようになっていた。寂しさを感じた義徳さんは、部下たちに取り入ろうと下手に出るが、ランチの誘いすらかわされて実現できず......。

 そこで義徳さんが目を向けたのは、同じ部署の部長(54歳)。「部下たちから孤立してしまって」と素直に打ち明けると、「やっぱりそうか」と笑顔で受け入れてくれたという。仕事では注意を受けることも多いが、仕事帰りの居酒屋では「バカ話で友人同士のように盛り上がる」。また、野球という共通の趣味があり、「休日にプロ野球観戦へ行く」ほか、「部長が家庭の悩みを相談してくれる」のだから、役職を超えた関係であることは間違いない。

 義徳さんと部長の関係は、言わば、映画『釣りバカ日誌』のハマちゃんとスーさんのようなもの。ハマちゃんのように、「人なつっこく、遠慮しすぎずに上司と接することが、改善策になった」というケースは意外に多い。義徳さんが課のリーダーになって話し相手が減った以上に、上役の人々は孤独な日々を送っている。管理職同士、あるいは、気軽に話せる相手が少ない社員同士が分かり合えるのは、ごく自然なことであり、仕事以外のくだらない話をするだけで、お互いにとって貴重な存在になりえるのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

現代自、関税対策チーム設置 メキシコ生産の一部を米

ビジネス

独IFO業況指数、4月86.9へ予想外の上昇 貿易

ワールド

カシミール襲撃犯「地の果てまで追う」とモディ首相、

ビジネス

ロシュ、米政府と直接交渉 関税免除求める
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 10
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中