給料が安いと感じているあなたは、おそらく影響力が足りない
第二の神話は「影響力を望む者は現代のマキャヴェリになれ」。すなわち、目的達成のためならなんでもする、邪悪で狡猾な人間になれということだ。ぞっとする事件を描いて、時にベストセラーになるノンフィクション作品も、この「いかにも」な人物像を強調する。だが、真実はもっと平凡だ。確かに、影響力を固めるには冷酷になるべきときもある。敵を飼い馴らすことも必要になる。それでも影響力を手にするには、よい資質を発揮したほうがずっと効果的だ――たとえば豊かな想像力、厳しい職業倫理、協調性を。策略という「黒魔術」に頼っても、結果に失望するのがおちだろう。
【参考記事】部下の話を聞かない人は本当のリーダーではない
第三の神話は「影響力はハードワークと誠実な努力のたまもの」。この神話はたぶん、普及度がより高い。時間を費やし、正しいことをし、ささやかな実績を積み上げれば、必然的に影響力を手にするという考え方だ。これは希望的観測にすぎない。本書のために話を聞いた人々のほとんどは、次の2つのカテゴリーに当てはまる。何かに秀でた人物――専門家や専門職の従事者――か、人や状況をうまく動かして目的を達成できる人物だ。ものを言うのは計画や才能。時間を費やせばオーケーではない。
第四の神話は「影響力を得るには、知名度を上げなくてはならない」。だが現代のセレブカルチャーが何を言おうと、有名にならなくても影響力は手に入る。私が取材した人々は誰も世間の注目の的ではない。それでも彼らは自分が属する組織のなかで、欲しいものを手にしている。
影響力ある人になるために必要なことを語る前に、影響力獲得の現状について考えてみよう。しばらく前まで、影響力は他者の協力なしには得られなかった。小説家には出版社、ジャーナリストにはエディター、政治家には所属する政党、ビジネスパーソンには経営陣や株主の承認が欠かせなかった。アイデアや才能だけでは不十分。広い層に働きかけるには、誰かに助けてもらうことが必要だった。言い換えれば、重要なのは創造的スキルだけでなくソーシャルスキル――人を味方につけ、チームの一員になり、組織を動かし、ルールを守ることが、アイデアやイノベーションの質と同じくらい大切だった。
インターネットがすべてを変えた。今や影響力は他者のサポートなしで手に入る。現代のオピニオンリーダーは大統領やCEOに限らない。片田舎に住むブロガーも流行を作る。「勝者とは、普及したアイデアのこと」。マーケティングの大家で、新時代の影響力のあり方を体現するセス・ゴーディンはそう言っている。オンラインの世界で影響力を持ちたいなら、斬新でクリエイティブなアイデアを生み出せるかどうかがすべてだ。
一方、組織のなかで仕事をする場合、アイデアだけでは勝負できない。重要なのは、いかにうまく組織を動かすか。この本はそのヒントも教える。