スラバヤ沖海戦で沈没の連合軍軍艦が消えた 海底から資源業者が勝手に回収か
沈没した艦船は船体に使用されている大量の鉄などの金属のほかにスクリューに使われている銅合金、船内の設備に使われている各種金属などが資源業者にとっては「まさに資源の宝庫」とされ、沈船調査業者と組んで回収を進めている。このため「沈没したことだけは知られているものの、その正確な位置が公になる前にすでに回収され、消えた船体もかなりあるのでは」(地元記者)と言われている。
沈船は誰のものか
インドネシアでは激戦地ビアク島などで戦死した日本兵の遺骨収集に関連して教育文化省が「インドネシア領土に過去50年間埋められていたものは文化財とみなす」との国内法の壁に阻まれて「日本兵の遺骨といえどもインドネシアの文化財である」と一時、遺骨収集事業が頓挫したこともある。このため、インドネシア側が今後、海洋当局の調査と別に教育文化省などが戦没者の遺骨同様に「50年を経過した沈没船舶とその積載物、船内の遺骨はインドネシアの文化財」と主張する可能性もあり、調査の行方は全く不透明だ。
沈没船舶の所有権に関しては国際海洋法上などの関係条約上でも軍艦を含めてその旗国と領海国、沿岸国の主権国との間の権利関係が必ずしも明確に規定されていないとされる。
「沈没海域が内水及び領海なのか、公海なのか」、「沈没船舶が私船なのか軍艦または他の国家船舶なのか」「沈没原因が海難事故なのか戦闘行為の結果なのか」によって法的解釈や適用法律が複雑になるため、一律に取り扱えないという実情もある。
そのため特に戦時中の沈没軍艦に対しては英やオランダ国防省が主張する「戦死者の鎮魂」という特別な解釈による扱いが求められているが、インドネシアの資源業者には「単なる金属資源の塊」としか沈没軍艦は映らないという現実もある。
消失した軍艦内部に残されていたと推定される戦死者の遺骨については「すでに海底に散乱して収集も慰霊も困難」との見方が有力で、インドネシア政府としては当該軍艦を回収処理した業者の追跡、摘発と遺骨の行方に関する調査、さらに類似事案の再発防止に全力を注ぐ以外には具体的な対処法方法はないといわれている。
米英オランダの沈没軍艦・潜水艦にとっては戦時中の沈没、戦後の船体回収・解体と「2度の災難に見舞われたこと」になり、戦死者の遺族や関係国の海軍関係者にとっては心の痛む出来事といえ、一刻も早い国際的な規範作りが必要だろう。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など