最新記事

インドネシア

スラバヤ沖海戦で沈没の連合軍軍艦が消えた 海底から資源業者が勝手に回収か

2016年11月28日(月)16時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

 海軍艦艇の沈没による死者は可能な限り遺骨収集をするものの、海底の状況や深度などから回収が困難な場合は「沈没した艦艇を墓に見立てて永遠に保存することで慰霊する」のが各国海軍の共通理解とされているという。

 このため沈没軍艦の消失にオランダ国防省は「戦死した海軍軍人の墓が不当に扱われることはあってはならないことである」と不快感を表明、オランダの国内世論もインドネシアに厳しくなっていた。

 英国防省も「沈没した軍艦はそのまま保護されるべきで、艦と運命を共にした戦死者はその海底で安らかに眠ることを許されるべきだ」と戦死者の鎮魂を前面に出してインドネシアを批判した。

オランダ首相も首脳会談で善処要求

 11月23日、インドネシアの首都ジャカルタの大統領官邸で同国を訪問中のオランダのルッテ首相がジョコ・ウィドド大統領と首脳会談した際に、ルッテ首相からこのオランダ沈没軍艦の消失に関する言及があり、ジョコ大統領は事実関係の調査を約束した。

 首脳会談後の共同記者会見でルッテ首相は「原因究明に向けてインドネシア政府が協力を表明したことを感謝する」とわざわざ発言した背景にはオランダ国内世論のインドネシア批判への配慮が込められていた。

 さらに重巡「エクセター」が丸ごと海底から消えた英国国防省も事態を重視、インドネシア政府に「深刻な懸念」を表明すると同時に「事実関係の調査と現場海域の保護措置」を求めた。

 インドネシア政府はジョコ大統領の強い指示で海洋当局が事実関係の調査に早速着手したが、いつ頃、誰によってどのように沈没艦艇の船体が回収、持ち去られたのか、戦死者の遺骨を含む艦内に残されていた遺留品などの行方はどうなっているのか、謎が多く早期の解決は困難とみられている。

 それは失われた艦艇船体は海底から金属を回収する専門の資源業者によって引き上げられ解体、すでに鉄くずなどとして売却されている可能性が極めて高いからだ。

沈没艦艇は資源の宝庫

 日本と同様の島国で四方を海に囲まれたインドネシアでは海底に多くの沈没船があることでも知られ、沈船を目当てにしたダイビング観光などのほかに、沈船の積み荷、そして沈船そのものを資源として勝手に回収する業者が存在する。

 2014年にはジャワ島西部とスマトラ島南部の間にあるスンダ海峡で、同じく第2次世界大戦中に沈没した米海軍の重巡「ヒューストン」の船体が海底からある日突然消えた事例も報告されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

比大統領「犯罪計画見過ごせず」、当局が脅迫で副大統

ビジネス

トランプ氏、ガス輸出・石油掘削促進 就任直後に発表

ビジネス

トタルエナジーズがアダニとの事業停止、「米捜査知ら

ワールド

ロシア、ウクライナ停戦で次期米政権に期待か ウォル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中