最新記事

メディア

メディアをバッシングすることで人気を得るポピュリスト政治家

2016年11月21日(月)15時28分
Rio Nishiyama

Chris Keane-REUTERS

<トランプのネガティブな報道を流し続けた主要なマスメディア、そしてその報道を逆手にとることで支持を得たトランプ。ポピュリズムが席巻する時代のメディアの役割が問われている>

メディアが犯した失態は結果予測の誤りだけではない

 アメリカ大統領選でのトランプの勝利は、従来型メディアの問題点に焦点を当てた。事前の結果予測においては、ほとんどのメディアでクリントン優位が伝えられていたにもかかわらず、結果はメディアが報じていたものとはまったく異なるものだったからだ。

 共和党と民主党の支持が拮抗した6つの「スウィング・ステート」において、メディアは有権者の投票行動を見誤っていた。アイオワ、フロリダ、オハイオといったこれらのスウィング・ステートでは事前にクリントンの勝利が確実視されていたにもかかわらず、蓋を開けてみればすべての州でトランプの支持がクリントンのそれを上回っていた。

 今回の選挙でメディアが犯した失態は結果予測の誤りだけではない。選挙期間を通じて、主要なマスメディアの多くはクリントン支持を表明し、トランプのネガティブな報道を連日流し続けた。その結果、ジャーナリズムに必要とされる「公平性」「中立性」が失われ、有権者からの信頼を損ねることにつながった。

 Investor's Business Daily/TIPP Pollが9月におこなったリサーチによれば、有権者の67%がメディアの報道は不正確でバイアスがあると感じており、クリントンに有利な報道がされていると感じている有権者の数は50%にのぼった。メディアがクリントンに対して「厳しすぎる」と感じた有権者は16%にすぎなかった。

 逆に、トランプは、この表層的な発言をあげつらった「スキャンダル化された」報道を逆手にとることで支持を得た。トランプは自分のスキャンダルや暴言を連日伝えるメディアによって十分な注目を浴びることに成功し、かつ既存のメディアは「腐敗した政治エリート側に付いて真実を隠し、プロパガンダを流している」と糾弾することで、自分はソーシャルメディアを使って、「真実」を伝えている、という物語をつくることに成功した。


「CNNは最悪だー彼らが如何に偏っているかみんなわかっているから、悪評を得ているところが不幸中の幸いだ」

 このような傾向は世界的なポピュリスト政治家の台頭にも当てはまる。現在ヨーロッパとアメリカで席巻しているポピュリストの共通点は、その多くがメディアをバッシングすることで人気を得た、という点にある。彼らはメディアを、政治エリートに都合の良い事実しか報道せず、本当の「民意」を報道していないと語り、投票によって「民意」を示そう、と語りかける。
 
 トランプの勝利を受けて、来春のフランス大統領選挙への立候補を表明している右翼のポピュリスト政治家ルペンは以下のようにツイートした。


「新アメリカ合衆国大統領となったドナルド・トランプ氏と、自由なアメリカ市民へ、おめでとう!」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、4日に多国間協議 平和維持部隊派遣

ビジネス

米国株式市場=まちまち、トランプ関税発表控え

ワールド

カナダ・メキシコ首脳が電話会談、米貿易措置への対抗

ワールド

米政権、軍事装備品の輸出規制緩和を計画=情報筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中