台湾の国民党は中国共産党に降伏宣言をするのか?――洪秀柱・習近平党首会談
ちなみに、中国共産党の党大会と全体会議は、すべて国民党の政治制度に倣(なら)ったものである。国民党は1919年に誕生し(孫文が中華革命党を改組して結党)、中国共産党は1921年に誕生している。そのため、「党大会(全国代表大会)」とか「(中央委員会)第○次全体会議」などの呼称が、国民党と共産党との間で対応しているのである。中国共産党が来年ようやく第19回党大会を迎えるのは、建党が2年ほど遅いからだ。
さて、国民党第19回党大会・第4次全体会議で党綱領に「和平協議」という文言を書き入れることに成功した洪秀柱主席は、「和議協議」という党綱領を持つ党の主席として、中国共産党の習近平総書記と、「党首会談」を行なう決意をすることによって、「和議協議」実現の方向に一歩、踏み出したことになる。
ただし、「和平協定」を締結してしまうと、「92コンセンサス」の「一中各表」は意味を成さなくなり、新たな両岸関係が生まれ、実質上は「中台統一」に至ってしまう。
野党である国民党党首には「国家」としての権限はない
11月1日午後(このコラムが公開されるであろう日の午後)、洪秀柱主席は習近平総書記と、「国共党首会談」を行なうことになるが、その会談の場において、「両岸和平協議」に触れ、かつ国民党の綱領に「和平協議」という文言を入れたことを紹介するであろうと言われている。
「和平協議」は、「国共内戦の講和条約」のような意味を持ち、「内戦は終わりましたね」ということを確認し、実質上、「国民党軍が共産党軍に敗北した」ことを認めることになる。
ただ、国民党はいま政権与党ではないので、野党がどんなに討議したところで、それは「党同士」の「党首会談」の域を出ない。「国家」として、何かを決議する権限は、国民党にはないのである。したがって、中台間において法律的な効果を発揮することはないと言っていい。
中国の軍事覇権を正当化させる台湾国民党の親中路線
台湾の世論では、「敵の軍門に降るのか?」とか「チャイナ・マネーに心を売るのか?」といった批判がある。
そもそも、「日中戦争の時に勇猛果敢に戦ったのは中国共産党軍であり、国民党軍は逃げ回っていた」とする現在の中国共産党に対して、国民党が抗議をすべきなのに、その共産党に迎合するというのは何ごとかという民意がある。
しかし、党としての立場となると、そこは微妙に違ってくる。
民進党は国民党を礼賛したくはないので、「いや、国民党こそが中心になって戦ったのであって、共産党軍を率いていた毛沢東は、日本軍と共謀していたではないか」とは言いたくない。国民党に有利になるからだ。
国民党自身が中共政権に向かって「お前はおかしいだろう!歴史を捏造している!」と叫ばないとすれば、習近平政権としては嬉しくてならないだろう。ますます中国人民および国際社会に向かって、「抗日戦争の中流砥柱(中心となって支える大黒柱)は、中国共産党軍であった」という歴史の捏造を、堂々と行う環境が整ってくるからだ。
中流砥柱となって戦った国民党がそれを否定しないのなら、他の国が何を言っても怖くない。
「中国共産党軍こそが、反ファシズム戦争のチャンピオンだった」として、昨年は建国後初めての軍事パレードを行った。
その先にあるのは、「反ファシズム戦争における戦勝国国としての中国の軍事拡大は正当である」という軍事強国を正当化する中国の覇権戦略なのである。
洪秀柱主席と習近平総書記の国共党首会談で「和平協議」が討議されようとされまいと、民進党の蔡英文政権に対抗した国民党の親中路線は、中国の軍事力強化に正当性を与えるものであり、日本と無関係ではないことに注目したい。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。