ナジブ首相の足をひっぱるマレーシアのイメルダ夫人
その一方で与党系のマスメディアでは連日のようにその公的活動が伝えられ「ファーストレディとして貧困対策、社会運動支援に活躍する姿」が大きく報じられている。10月10日の「ニュー・ストレート・タイムズ」は、ロスマ夫人が自閉症児の施設を訪問し約3時間にわたる施設訪問の様子を自閉症児やその親と笑顔で歓談する写真とともに掲載した。
選挙前の辞任を目指し野党大同団結へ
マハティール元首相がかつてのライバル、アンワル元副首相と連携して「打倒ナジブ」に動き出し、反ナジブ運動が拡大の様相を見せる中、2018年に予定される次の総選挙の日程を前倒しするのかどうかが焦点となっていた。ナジブ首相は、野党の足並みが揃いその勢力を拡大する前に議会を解散し、総選挙を前倒しすることを一時模索していたといわれる。しかし、自らのスキャンダルに加えてロスマ夫人の数々の疑惑が急浮上するなか、「総選挙の前倒しは逆に不利」と判断して方針を転換、政権維持にまい進する覚悟を決めたとされる。
ナジブ首相率いる与党「統一マレー国民組織(UMNO)」は11月29日に党大会を控えており、ナジブ首相はその場で政権維持への方針を再確認して党の結束と支持をまとめたい意向だ。
これに対し、今や公然と反旗を翻し「ナジブ退任」を求めるマハティール元首相は、野党「人民公正党」の実質的指導者でかつての右腕、有力後継者でありながら「同性愛疑惑」で政界から葬り去ろうとしたアンワル元副首相との歴史的和解で連携を深めている。さらにナジブ首相を批判して副首相を解任され、与党UMNOからも除名されたムヒディン前副首相を新党党首に迎えるなどマハティール元首相を軸にして「ナジブ包囲網」を着実に固めつつある。マハティール元首相は野党勢力の大同団結で総選挙での政権交代を目指す、としているが、ナジブ首相やその夫人の次々と浮上するスキャンダル、疑惑を追い風にして、学生や人権団体、中華系組織、イスラム組織など社会のありとあらゆる階層、組織、団体をまとめることで社会的気運を盛り上げ、ナジブ首相に総選挙前の辞任を迫る方策を練っているとみられている。今後のマレーシア情勢からますます目が離せなってきたのは確実だ。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など