最新記事

環境問題

抗生物質が効かない耐性菌の「培養シャーレ」化するインドの湖

2016年10月9日(日)15時29分

主要製薬会社13社は先週、台頭する薬剤耐性菌に向けた対策の一環として、抗生物質を製造する施設からの汚染を浄化すると約束。国連加盟国も、薬剤耐性菌の脅威に対する取り組みを初めて公約した。

<稼ぎ頭の製薬産業>

パタンチェルー地域は、テランガナ州における主要な製薬拠点の1つだ。商務省のデータによれば、州内総生産の約30%を製薬産業が占めている。州都ハイデラバードからの医薬品の輸出額は年間約140億ドル(約1兆4300億円)に達している。

地元のラオ医師が指摘するのは、イェーテボリ大学(スウェーデン)の科学者たちによる調査で、これによれば、Kazhipally湖内及び周辺で、医薬品製造に由来する非常に高レベルの汚染とともに、抗生物質への耐性を備えた細菌の存在が確認された。

科学者たちは、10年近くも前からこの地域の汚染に関する調査データを公開してきた。2007年に行われた最初の調査では、製薬工場が使用している処理プラントからの廃液に含まれる抗生物質の濃度は、治療患者の血液中に想定される数値よりも高いことがわかった。こうした廃液が、地元の湖や河川に放出されていたという。

「汚染された湖では、比較対象となったインド国内の湖やスウェーデンの湖に比べ、シプロフロキサシン耐性、スルファメトキサゾール耐性を備えたバクテリア比率が相当に高かった」と2015年の最新報告は、広く利用されている2種類の抗生物質の名前を挙げて指摘した。

現地自治体の当局者と製薬産業の代表者らは、こうした調査結果に異議を唱えている。

ハイデラバードに本拠を置く「インド・バルク医薬品製造者協会」(BDMAI)は、「州のPCBがKazhipally湖の水質について独自に行った調査では抗生物質が検出されていない」と述べている。だが、ロイターが数回にわたり要請したにもかかわらず、州PCBからその報告のコピーは提供されなかった。

「あの湖に医薬品成分が含まれていないという信頼できる報告は見たことがない」。スウェーデンの科学者らによる初回の調査を指揮し、その後の数回の調査にも参加したイェーテボリ大学のヨアキム・ラ―ション教授(環境薬理学)はそう語る。「改善があったとしても不思議はないが、データがないので何とも言えない」

<排水処理の不備>

地元の活動家や研究者によれば、1990年代にメダック県に建設された共同廃液処理施設(CETP)は製薬関連の大量の廃液を処理するには力不足だという。

抗議行動と地元村民による訴訟を経て、ハイデラバード近郊にある別のプラントに廃液を輸送するための全長20キロのパイプラインが建設された。だが活動家らによれば、これは問題を移し替えただけにすぎないという。廃液は別プラントに送られ、家庭からの排水と混合処理した上でムシ川に流されるのだという。

ハイデラバードにあるインド工科大学の研究者らが今年発表した調査結果では、ムシ川(インド最長の河川の1つであるクリシュナ川の支流)では、高水準の広域抗生物質が検出されている。

地方自治体のプラントに関する責任者は、ロイターからのコメント要請に応じなかった。

パタンチェルー地域における医薬品企業の現旧職員10数人がロイターに語ったところによれば、さまざまな企業の工場スタッフは頻繁に未処理の化学廃液をプラント近くの掘削孔に不法投棄しており、ときには夜間、地元の湖沼に直接投棄することさえあるという。

職員らは匿名を条件に取材に応じており、ロイターではこれらの証言を個別に裏付けることはできなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中