選挙ボランティアから見える、大統領選「地上戦」の現状
その後、キャンペーン事務所からファイルを手渡された。そこには、有権者の住所・氏名・年齢、登録政党(民主党、共和党、無所属)が載っている。ボランティアはペアを組んで、それらの有権者を訪問し、話した結果を記録し、後で事務所に報告する。
筆者の相棒となったチャックは、マサチューセッツ州に住む50代の白人男性で、2008年と2012年にはオバマのボランティアとして活動し、今年はクリントンのために初期からキャンバシングをしている。予備選でサンダース候補に投票した彼は、それを後悔していると告白した。「バーニー(サンダース)とその支持者による、ヒラリー(クリントン)への攻撃は不公平なものが多かった。それでヒラリーのイメージはすっかりダメージを受けてしまった。キャンバシングでは、その悪影響を強く感じる」と話していた。
この日に筆者らが訪問したポーツマス市があるロッキングハム郡は、中間層の浮動票が多く、2000年にブッシュ大統領が勝った場所だ。多くの有権者は、予備選でどちらの党にも投票できるように、「無所属」として有権者登録をしている。しかしポーツマス市街地は都市部なので7割弱の住民が民主党寄りだ。そのせいか、戸別訪問に顔をこわばらせる人も若干はいるが、大部分は暖かい対応をしてくれた。
4時間で訪問できただけの小さなサンプルでしかないが、直接訪問することで、次のような傾向を肌で感じることができた。
【参考記事】討論初戦はヒラリー圧勝、それでも読めない現状不満層の動向
■応対した人の大半がクリントン支持(窓から民主党のボランティアとわかって出てこなかった人がいる可能性はある)。クリントンの積極的な支持者もいれば、「ほかに選択がないから」というアンチトランプ票もあった。
■年配の白人女性は、ほぼ全員ヒラリー支持。
■「共和党支持(つまりトランプに投票する)」と答えたのは、白人男性だけ。
■夫婦間で意見が異なる場合がある。高級住宅地に住む白人女性は、「私はヒラリー支持だが、夫は(リバタリアン党のゲーリー)ジョンソン支持。説得は試みているのだけれど......」と苦笑していた。ドアを半分だけ開けて対応したある白人男性は、「僕は大統領から上院議員、知事、すべて共和党。妻は民主党支持だけれど」と話していた。
■「トランプは好きではないが、ヒラリーにも疑問を感じている」という迷いを口にする人が2割程度いた。彼らは、こちらの話に耳を傾ける余裕があった。
地上戦のキャンバシングの目的は、対立候補の支持者を説得して意見を変えることではない。すでに党の指名候補に心が傾いている有権者たちに、彼らの1票の重要さを実感してもらい、実際に投票してもらうのが最大の目的だ。また、直接会って有権者の実態を把握することで、貴重なデータを集めることもできる。
上記の通り、伝統的な地上戦では、クリントンはトランプに大差をつけている。だが、ソーシャルメディアという戦場では、クリントンは苦戦している。トランプがこれからの大統領選の戦略を根こそぎ変えてしまうのか――そこも今回の大統領選の大きな注目点だ。