セウォル号、接待禁止に台風直撃 韓国社会の問題が噴出した釜山映画祭
そんな釜山国際映画祭だが、今年は今までとは少し違った雰囲気を見せた。この兆候は2年前、2014年から始まっていた。「ダイビングベル」というセウォル号沈没事故を扱ったドキュメンタリー映画の上映に、釜山市長が待ったをかけたのだ。これに対し映画人達は表現の自由を脅かすものとして真っ向から対立。上映を強行した組織委員会の執行委員長は更迭を迫られ、映画人と釜山市の衝突が鮮明化した。今年は春に公式会見が行われたものの、開催6ヵ月前にして韓国映画監督組合など主要な4団体がボイコットを宣言。映画祭の開催自体危ぶまれる状態になってしまった。結果的には、釜山映画祭の灯を消したくないという関係者の尽力で映画祭はどうにか開催されたものの、追い討ちをかけるように開催前日に台風が釜山を直撃。野外ステージが壊れてしまい急きょ別のステージが準備されるなど、ギリギリまで開会できるのか不安がつきまとうなか、オープニングを迎えた。
直前に施行開始された接待禁止法が映画祭に影響
また今年9月末には釜山国際映画祭の勢いにストップをかける法律が施行された。それが通称「キム・ヨンラン法」である。この法律は正式名称を「不正請託及び金品授受の禁止関係法」といい、食事接待や贈り物などについて具体的な価格の上限が法律で決められた。
私が映画買い付けバイヤーだった頃、釜山国際映画祭の出張の目的といえば、映画の購入と商談はもちろん、毎夜繰り広げられる各社のパーティーへの参加だった。特に配給会社が開くパーティーでは、そこで出会う人たちと挨拶し、少しでも多く顔を売るチャンスの場になっていた。なかでも韓国4大配給会社(CJ・ロッテ・ショーボックス・NEW)のパーティーは盛大で、多くの監督や芸能人が参加し、毎年映画祭名物になっていたほどだ。大小さまざまなパーティーが開かれ、日によっては一晩で4〜5カ所の会場をはしごすることもある。しかし、映画祭開幕直前での法律施行に伴い、上記4大配給会社を含む多くの大手映画会社らはパーティー自体を中止した。また、パーティーを開いた会社も、会社ロゴなどが入ったお土産を取りやめたり、代わりに抽選会を行うなどして対処した。ある会社のパーティーでは、開場後「お客様の中で、ご本人がマスコミ関係者・教授・教職員であったり、配偶者がそのようなご職業である場合は、事前に主催者にご連絡ください」というアナウンスが流れたほどだ。キム・ヨンラン法施行後初の大きなイベントだったこともあり、どこまでがOKでどこからが法律違反になるか事例が無かったことから主催者側もかなり神経質になっていた様子が伺える。
映画祭側も、開幕・閉幕式ゲストのうち「大学教授及び、公共機関の職員」らへの、ソウルから釜山への交通費や宿泊費の提供を中止。これにより、直前での釜山行きチケットのキャンセルが相次いだ。また、開幕・閉幕式のチケットの一部は釜山市が釜山映画祭から貰い、それを地域の関係者に配っていたが、この行動が国民権益委員会から「キム・ヨンラン法に引っかかる可能性あり」との連絡をうけ、チケットの配布を中断。一般人予約券に切り替えた。