93年、米国を救ったクリントン「経済再生計画」の攻防
93年補正歳出予算法案に、③にあたる短期的景気刺激策の実施に必要な大型公共投資支出などを緊急支出として盛り込んだことを共和党は強く批判していた。上院審議では民主党の重鎮ロバート・バード上院歳出委員長が強硬な姿勢で法案可決を狙ったため、共和党の執拗な議事妨害にあい、同法案の審議は予想以上に難航する。
93年4月21日、同予算法案は議会を通過し、クリントンはこれに署名したが、同法案からは景気刺激策に必要な支出の大部分が削除されてしまっていた。これはクリントンが議会との攻防で味わった最初の挫折である。
5月初旬の世論調査の結果は芳しいものではなかった。クリントンの支持率は4月22日の55%から10%も落ちて45%になった。国民はクリントンには議会を説得する手腕がなく、力不足であると判断したのである。
財政再建策――包括的予算調整法
議会は財政再建策、すなわち包括的予算調整法案の審議にも入っていた。
クリントンが示した原案では、向こう5年間での歳出削減の細目が示されていた。それは、国防支出から1120億ドル、メディケアなど福祉の義務的経費から1150億ドル、国債費から460億ドル、社会保障費から290億ドル、そのほか裁量的経費から730億ドル、合計3750億ドルを削減する内容であった。
クリントンは増税も提案している。すなわち、①個人所得税に高額所得者(年収11万5000ドル以上、25万ドル以下)のカテゴリーを新設し、ここに属する人びとの最高税率を31%から36%に引き上げる、②年収25万ドル以上の超高額所得層の個人所得税率は最高税率を31%から39・6%とする、③法人所得税の課税率を現行の34%から36%まで引き上げる。
加えて、電力、ガス、ガソリンなど、あらゆるエネルギー消費に対して、BTU(英国熱量単位。1BTUは、標準気圧下で1ポンドの水を華氏60・5から61・5まであげるのに必要な熱量)の量に応じて課税する、包括的エネルギー税を新設する方針も打ち出された。
このBTU税はゴア副大統領のアイディアである。ゴアの考えでは、大気汚染の大きな原因となっている石炭への課税がもっとも重くなるため、BTU税は新規財源としてだけではなく、環境汚染の防止にも効果的であるとしていた。
以上、歳出削減(3750億ドル)と増税による歳入拡大(3280億ドル)を合計すれば、7030億ドルになる。ここから長期公共投資と短期景気刺激策に必要な支出2310億ドルが差し引かれるため、クリントンの原案によれば、向こう5年間の赤字削減額は4720億ドルになる見込みであった。
クリントン政権の財政再建案の特徴は増税を明確に打ち出し、財政赤字の削減を断行した点にあった。これはベンツェン財務長官、ルービン国家経済会議議長、パネッタ行政管理予算局長、リブリン行政管理予算副局長など経済チームの助言によるところが大きい。このほか、アラン・グリーンスパン連邦準備制度理事会議長の影響もあったといわれている。