最新記事

アメリカ政治

93年、米国を救ったクリントン「経済再生計画」の攻防

2016年10月22日(土)07時12分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

 93年補正歳出予算法案に、③にあたる短期的景気刺激策の実施に必要な大型公共投資支出などを緊急支出として盛り込んだことを共和党は強く批判していた。上院審議では民主党の重鎮ロバート・バード上院歳出委員長が強硬な姿勢で法案可決を狙ったため、共和党の執拗な議事妨害にあい、同法案の審議は予想以上に難航する。

 93年4月21日、同予算法案は議会を通過し、クリントンはこれに署名したが、同法案からは景気刺激策に必要な支出の大部分が削除されてしまっていた。これはクリントンが議会との攻防で味わった最初の挫折である。

 5月初旬の世論調査の結果は芳しいものではなかった。クリントンの支持率は4月22日の55%から10%も落ちて45%になった。国民はクリントンには議会を説得する手腕がなく、力不足であると判断したのである。

財政再建策――包括的予算調整法

 議会は財政再建策、すなわち包括的予算調整法案の審議にも入っていた。

 クリントンが示した原案では、向こう5年間での歳出削減の細目が示されていた。それは、国防支出から1120億ドル、メディケアなど福祉の義務的経費から1150億ドル、国債費から460億ドル、社会保障費から290億ドル、そのほか裁量的経費から730億ドル、合計3750億ドルを削減する内容であった。

 クリントンは増税も提案している。すなわち、①個人所得税に高額所得者(年収11万5000ドル以上、25万ドル以下)のカテゴリーを新設し、ここに属する人びとの最高税率を31%から36%に引き上げる、②年収25万ドル以上の超高額所得層の個人所得税率は最高税率を31%から39・6%とする、③法人所得税の課税率を現行の34%から36%まで引き上げる。

 加えて、電力、ガス、ガソリンなど、あらゆるエネルギー消費に対して、BTU(英国熱量単位。1BTUは、標準気圧下で1ポンドの水を華氏60・5から61・5まであげるのに必要な熱量)の量に応じて課税する、包括的エネルギー税を新設する方針も打ち出された。

 このBTU税はゴア副大統領のアイディアである。ゴアの考えでは、大気汚染の大きな原因となっている石炭への課税がもっとも重くなるため、BTU税は新規財源としてだけではなく、環境汚染の防止にも効果的であるとしていた。

 以上、歳出削減(3750億ドル)と増税による歳入拡大(3280億ドル)を合計すれば、7030億ドルになる。ここから長期公共投資と短期景気刺激策に必要な支出2310億ドルが差し引かれるため、クリントンの原案によれば、向こう5年間の赤字削減額は4720億ドルになる見込みであった。

 クリントン政権の財政再建案の特徴は増税を明確に打ち出し、財政赤字の削減を断行した点にあった。これはベンツェン財務長官、ルービン国家経済会議議長、パネッタ行政管理予算局長、リブリン行政管理予算副局長など経済チームの助言によるところが大きい。このほか、アラン・グリーンスパン連邦準備制度理事会議長の影響もあったといわれている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英消費者信頼感、11月は3カ月ぶり高水準 消費意欲

ワールド

トランプ氏、米学校選択制を拡大へ 私学奨学金への税

ワールド

ブラジル前大統領らにクーデター計画容疑、連邦警察が

ビジネス

カナダ、63億加ドルの物価高対策発表 25年総選挙
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中