最新記事

映画

VR元年に攻める韓国、映画も没入感あふれる次世代上映が大ヒット

2016年9月9日(金)19時55分
杉本あずみ(映画配給コーディネーター)

 ところで、なぜ韓国映画界はスクリーンX をはじめ4DXといった新しい映画館の形を求め開発するのだろうか? 近年、韓国はシネコン・チェーンの映画館が全国の大半を占めている。どの映画館へ行ってもほぼ同じ作品しか上映されておらず、映画館側は観客を確保するため、特別な味のポップコーンを提供したり、アニメ映画との限定コラボレーショングッズを開発したり、差別化を図ろうと必死である。ポイント制度は、今や韓国映画館での常識となっている。しかし、最近はそんなプラスアルファでの差別化ではなく、映画作品と映画館自体のエンターテインメント性での差別化を図り、観客も映画館にしかないコンテンツを求め、わざわざ足を運ぶ時代に変わってきている。

 4DやスクリーンXのように、よりリアルな体験を求めて観客は映画館に集り、そしてお金を落としていく。VRはいつでもどこでもヘッドセット一つで仮想の世界を簡単に体験できるコンテンツを実現したが、映画館はいかに足を運んでもらうかを模索し、ライバルであるはずのVRとも手を組んで、ここでしか見ることのできない体験を提供しようと日々開発に取り組んでいる。

 現在まで、韓国、中国、北米などでスクリーンX形式で上映された作品は韓国映画8作品、中国映画3作品(9月公開の「Chinese Odyssey3」を含めると4作品)、その他コンサートや公演などのオルタナティブ・コンテンツ2作品。このうち8作が今年に入ってからの公開作品で、スクリーンX形式への対応はここにきて急に増えている。特に、6月に韓国で公開され7月には日本でも公開された人気アイドルBIGBANGのデビュー10周年記念ドキュメンタリー「BIGBANG MADE」は、韓国、北米、タイでスクリーンXバージョンが公開され熱い反響を得た。ワールドツアーコンサートを3面特殊カメラで撮影した映像は、まるでコンサート会場をそのまま劇場に移したかのようだと海外のプレスから激賞を浴びた。


BIGBANGが13か国32都市で約150万人を動員したワールドツアーの様子を撮影、編集段階でCGなどを追加した映像はコンサート会場以上の迫力

 2016年はいわば韓国の「スクリーンX元年」である。今後も引き続きスクリーンX作品は制作され、多くの感動と共感を与えるであろう。作り手が3面スクリーンというアイディアを生かした斬新な作品を発表し、ひいては映画自体の表現の可能性も広げていくことに期待したい。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報

ビジネス

独総合PMI、11月は2月以来の低水準 サービスが

ビジネス

仏総合PMI、11月は44.8に低下 新規受注が大

ビジネス

印財閥アダニ、資金調達に支障も 会長起訴で投資家の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中