「親を捨てるしかない」時代に、子は、親は、どうすべきか
そればかりか、そもそも「家」という考え方が成り立たなくなっている。
家が永続性を失い、脆いものになったことで、先祖という存在自体が消滅して、先祖の祟りという脅し文句にリアリティーを感じられなくなったのだ。
これは、都会における暮らしの気楽さを象徴する出来事でもある。(中略)
そんな形の家を作ってきたのだから、都会の人間は、最後単身者世帯になり、たったひとりで死んでいくことを覚悟しなければならない。(192~193ページより)
家や家族の関係が脆いものである以上、兄弟姉妹の関係になれば、もっと脆いのは当然。だとすれば人はひとりで生きていき、ひとりで死んでいくしかない。だから、子どもに介護を期待すること自体がありえないことだと著者。子どもはそんな義務を果たす必要がないし、親もそれを期待できないと覚悟すべきだということだ。
追い込まれてから親を捨てるということは、実際には大変なことだし、心理的にも負担になる。必要なのは、そうした事態を生まないことであり、それ以前にしっかりと親離れ、子離れをしておくことなのである。(194ページより)
私たちひとりひとりが、自身の親との関係性(あるいは捨て方)を意識すべき時代なのだろう。それはわかる。ただ気になったのは、「親を捨てる」具体的な手段が最後まで明確になっていない点だ。具体性(親を捨てるというのに具体性というのもおかしいが)が乏しく、机上の空論で終わってしまっている感が否めないため、消化不良気味のまま終わってしまうような印象が残るのである。
『もう親を捨てるしかない――介護・葬式・遺産は、要らない』
島田裕巳 著
幻冬舎新書
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「Suzie」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、多方面で活躍中。2月26日に新刊『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)を上梓。