最新記事

フランス

再挑戦サルコジのトランプ流戦略

2016年9月17日(土)09時45分
ドミニク・モイジ(パリ政治学院教授)

Philippe Laurenson-REUTERS

<来年の選挙で返り咲きを目指す前大統領は、イスラム教徒たたきで支持拡大を目指している>

 やはり、と思った人がほとんどだろう。ニコラ・サルコジ前大統領が来年のフランス大統領選への再挑戦を表明した。12年の前回選挙で左派・社会党のフランソワ・オランドに敗れて大統領の座を失ったときは、政治から身を引く意向を示したが、額面どおりに受け取った人はまずいなかった。

 サルコジは、長い間スポットライトを浴びずにいられる人間ではない。権力欲を捨てられず、リベンジのチャンスを待ち続けていたのだろう。

 そのチャンスが巡ってきたと思っているようだ。最近の世論調査でもサルコジの評価は低いままだが、オランドの不人気ぶりは際立っている。確かにオランド政権発足以降、フランスの社会・経済・治安の状況は悪化した。多くの国民は、その責任がオランドにあると思っている。

 この状況は、右派・共和党内でのサルコジのライバルである穏健派のアラン・ジュペ元首相にも不利に働く。サルコジとジュペは、共和党予備選で党大統領候補の座を争うことになる。

【参考記事】<ブルキニ問題>「ライシテの国」フランスは特殊だと切り捨てられるか?

 2人が前面に押し出しているのが、フランスのアイデンティティーだ。しかし、「幸せなアイデンティティー」というキャッチフレーズを掲げるジュペが社会で深まる亀裂の克服を目指しているのに対し、サルコジはその亀裂を利用しているように見える。イスラム教をフランス的生き方の土台を脅かすものと位置付けているのだ。

 昨今の社会のムードを考えると、サルコジ流が功を奏する可能性はある。7月には南仏ニースで80人以上が殺害され、北部ルーアン近郊でも教会で神父が惨殺されるテロ事件が起きた。これらの事件を受けて、国民感情はささくれ立っている。

穏健派の元首相が最有力

 それはイスラム教徒女性向けの全身を覆う水着「ブルキニ」をめぐる騒動によく表れている。フランスの海辺の自治体ではこの夏、ブルキニの着用を禁じる動きが相次いだ。警察が罰金を徴収するだけでなく、ニースではビーチでブルキニを着用していた女性に頭部の覆いを取り外すよう求めた例もあった。

 だが先月末にフランス国務院(行政訴訟の最高裁判所に相当)は、自治体の首長らにブルキニ着用を禁じる権利はないとの判断を示した。この決定は各地の都市に影響するだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中