米国でも子育て支援の充実が大統領選の論点に
所得控除は、課税所得を計算する際に、控除対象となる費用を所得から差し引く方式である。実際の減税額は、対象となる費用にそれぞれの家計の税率をかけ合わせた金額になる。所得税は富裕層ほど税率が高いので、子育て費用が同じだった場合には、富裕層ほど減税額が大きくなる。
これに対して、クリントン氏が検討する税額控除は、それぞれの家計が支払う税金から、対象費用を差し引く形となる。所得の高低、すなわち、適用税率の高低にかかわらず、減税額は同じである。
トランプ氏も、黙って批判されているわけではない。9月13日に明らかにされた具体案では、低所得層にも子育て支援を行うために、給付付き税額控除を利用する方針が明らかにされている。給付付き税額控除では、納税額を上回る減税相当分が家計に支給される。所得が低い家計では、そもそも払うべき所得税の負担が少ないために、減税の恩恵を受けきれない場合がある。給付付き税額控除には、そうした問題を回避する効果がある。
むしろトランプ氏が苦慮しているのは、共和党支持者に根強い「伝統的な価値観」との兼ね合いかもしれない。共和党支持者のなかには、子育て費用の支援が母親の就労を奨励し、子育てに専念する母親が減少することを懸念する声がある。女性の社会進出に前向きな民主党では、あまり気にされていない論点である。詳細は明らかにされていないが、トランプ氏は、専業主婦による子育てについても、税制上の支援策を講ずる方針であるようだ。
安井明彦
1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、2014年より現職。政策・政治を中心に、一貫して米国を担当。著書に『アメリカ選択肢なき選択』などがある。