米国でも子育て支援の充実が大統領選の論点に
子育て費用は医療費の約4倍
米国の子育て事情に関しては、日本のような待機児童の問題はあまり伝えられない。しかし、その米国でも、幼少期における育児や教育の重要性に対する意識が高まると同時に、その負担の重さが問題となっている。とくに、格差の拡大が問題となるなかで、育児支援の充実には、その解決策の一つとなる期待がよせられている。
米国では、幼少期にきちんとした育児や教育を受けられるかによって、将来の所得に大きな差が出てくることが分かってきている。ミシガン州で行われた調査によれば、義務教育前に幼稚園に通った子が40歳になるまでに得た所得は、通わなかった子を約25%上回ったという。
幼少期の育てられ方の違いは、親の経済環境に左右される側面が大きい。例えば、米国で義務教育前に3~4歳児が幼稚園に通う割合は、母親が大卒以上の家庭では6割強であるのに対し、母親が高卒未満の場合には4割程度にとどまっている。親の学歴が低い家計は、経済的に恵まれていない場合が多く、金銭的な余裕のなさが、子の教育機会を奪っているようだ。
【参考記事】トランプ現象の背後に白人の絶望──死亡率上昇の深い闇
子育てに関する費用を軽減できれば、親の働き方の選択肢が広がる効果も期待できる。保育や教育に外部の施設を利用しようにも、その費用が高すぎれば親が自分の手で引き受けなければならなくなる。2015年にワシントン・ポスト紙が行った世論調査によれば、子育てに費やす時間を増やすために、母親の6割以上、父親でも4割弱が、仕事を辞めたり、負担の軽い仕事に転職したりしているという。
米国の育児費用は、上昇傾向にある。商務省センサス局によれば、インフレ率による上昇分を差し引いても、母親が働いている世帯における育児費用は、1985年から2011年の間に70%以上も上昇している。
幼い子供を抱える家計において、育児費用の負担は大きい。米国では、大学の学費や医療費の高さが指摘されるが、多くの地域において育児費用はそうした費用を上回る。両候補が演説を行った中西部を例にとると、乳児1人、4歳児1人の家庭の場合、育児に伴う費用は年平均で1万8千ドル弱(約180万円)。大学の学費の約2倍、医療費の実に約4倍である(図)。
「伝統的な価値観」が障害に?
支援充実の方向性が一致している以上、論点は支援策の内容に移っている。
クリントン氏は、トランプ氏の提案では、庶民を十分に支援できないと批判する。所得控除が中心であるために、富裕層の恩恵が大きくなりやすいからだ。富裕層に対する減税が大きいトランプ氏の所得税改革案と同様、金持ち優遇との批判を受けやすい側面がある。