子どもへの愛情を口にしながら、わが子を殺す親たち
このように彼らには、人間として決定的に欠けている部分があるのだ。欠けた部分は誰にだってあるけれども、こうした欠け方はやはり異常だ。そしてその異常さに気づかないまま、彼らはそこを言い訳や自己憐憫などで埋めようとする。そうすればなんとかなると、本気で思っている。
もちろん事件の細部の描写も強烈なのだが、私がいちばん恐怖を感じたのはここだ。こういう人たちが、普通に生活しているという現実を恐ろしいと感じたのだ。
読み進めていくとわかるが、彼らはそれぞれ、複雑な家庭環境などの問題を抱えて生きてきた人たちだ。だからといってなにが許されるはずもないのだが、そのようにブチギレた感覚で(無意識のうちに)自分を武装しない限り、生きてこられなかったのかもしれない。
そして必然的に実感せざるを得なかったのは、こうした人たちは、まだまだ世の中にたくさん存在するのだろうなということだ。だから虐待も増加の一途をたどっているのだろうし、それは社会の歪み以外のなにものでもない。
そんなことをヒリヒリと感じさせてくれるからこそ、本書はどよんとしたものを心のなかに残す。だから決して楽に読み進められる内容ではないし、「とてもじゃないけど読めない」と抵抗感を示す人もきっといるだろう。しかし個人的には、これは1人でも多くの人が読むべき作品だと感じた。多くの人は児童虐待と無縁の生活を送っているだろうが、だからといって他人事とはいい切れないところまで、現在の日本は来ているのだから。
『「鬼畜」の家――わが子を殺す親たち』
石井光太 著
新潮社
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「Suzie」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、多方面で活躍中。2月26日に新刊『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)を上梓。