ドゥテルテ大統領下のフィリピン麻薬戦争、死者の山に口閉ざす人々
人権団体はドゥテルテ市長時代のダバオにおいて数百件もの不審な殺害例を記録しており、ダバオ氏では暗殺部隊が何の刑事責任も負わずに活動していたと述べている。一部で「パニッシャー(仕置き人)」と呼ばれるドゥテルテ大統領は、超法規的な殺害を命じていることを否定するが、そうした行為を批判していないのは事実だ。
現在フィリピン国内では、麻薬密売人の容疑者リストが地域の有力者から警察に提出されており、コミュニティのなかに恐怖感・不信感が増している。
政治家は、タイプを問わず皆沈黙しており、デリマ氏が主導する上院による調査も、法案を提出できるだけで、現場で殺人を止めることはできない。
<監察官は手一杯>
IASを指揮するLeo Angelo Leuterio主任警視は、警察が関与した発砲事件の調査はすべてIASが担当していると話す。だが、監察官は全国でわずか170人程度しかおらず、IASが対処できるのは、日々報告される約30案件のうち、30%に過ぎない。「IASはボロボロの状態だ」とLeuterio氏は言う。
IASのトップは独立性を確保するために文官であることとされているが、Leuterio氏は、ドゥテルテ大統領の地元であるダバオで13年のキャリアを積んできた警察官だ。同氏は、自分は公明正大であり、これまでに不正行為を理由に何百人もの警察官を解雇してきた実績があるという。
一方CHR側では、7月1日以降に発生した2000件以上の殺害事件のうち、調査しているのはわずか259件である。14人で構成される法医学チームは手一杯であり、狭苦しいオフィスで、超法規的な殺害の容疑を調べている調査官は、わずか12件の調査書類しか処理していない。
CHRは、最大の障害は、証人を見つけることが難しい点だという。
警察は29日、マニラの人口稠密な極貧地区であるトンド地区で、麻薬密売の容疑者に対して発砲したと記者団に発表した。
ロイター記者が、1部屋しかない容疑者の家を調べたところ、マットレスに血痕が散っていた。記者は近隣の住民に「何発撃たれたのか」と質問した。その男性は「悪いね、君。私は銃声なんて一発も聞いていないよ」と答えて歩き去った。
(John Chalmers記者、Andrew R.C. Marshall記者、翻訳:エァクレーレン)