最新記事

フィリピン

ドゥテルテ大統領下のフィリピン麻薬戦争、死者の山に口閉ざす人々

2016年9月7日(水)10時27分

死者数の増加にもかかわらず、パルス・アジアが7月に行った世論調査におけるドゥテルテ大統領の支持率は91%に達している。

事態を憂慮したカトリック教会が「汝、殺すなかれ」という戒律を思い起こすよう呼びかけているが、カトリック教徒が多数を占める国にもかかわらず、ほとんどニュースにもならない。新聞各紙は、最新の殺害事件についての息を呑むような報道を選好しているからだ。

ドゥテルテ大統領は、反大統領派の筆頭であるレイラ・デリマ上院議員に対する手厳しい攻撃を続けており、彼女が自ら麻薬取引に手を染め、運転手と不倫関係にあると批判している。

デリマ氏は先週ロイターの取材に対し、5歳の少女が頭部を撃たれる事件まで発生するという「狂気的」な状況を嘆きつつ、「このような事態を止めることができるのは大統領だけだ」と語った。

「いったいあと何件こうした巻き添え被害に耐えれば、われわれは本当にこの状況を嘆くことができるようになるのか」と訴える。

海外からの批判に関して、ドゥテルテ大統領は呪詛の言葉を織り交ぜつつ冷笑を浴びせている。

国連が殺害事件の急増を批判したことに対し、ドゥテルテ大統領は強い調子で反論し、今週ラオスで開催される東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議の際に潘基文・国連事務総長と会談することを断った。

ドゥテルテ大統領は6日にラオスでオバマ米大統領と会談する予定だったが、「米国では黒人が無抵抗の意志を示していても撃たれている」と述べ、その米国の大統領から人権に関する授業を受けるつもりはないと明言している。

<「誰もが恐がっている」>

ドゥテルテ大統領の地元であるダバオ州の市場で14人が死亡する爆弾テロが発生したことを受けて、大統領がさらに弾圧を強める可能性がある。

警察はこの爆弾テロについて、過激派組織「イスラム国」とのつながりのある過激派グループ「アブサヤフ」(これについてもドゥテルテ大統領は撲滅を誓っている)の犯行と見ているが、大統領は麻薬に対する戦争によって他の敵を作りつつあり、今回のテロによって、大統領暗殺計画についての噂が取り沙汰されるようになった。

ドゥテルテ大統領は爆弾テロを受けて、「無法状態」を国中に宣言した。これは、軍による検問やパトロールによって警察支援を認める措置だ。

同大統領は、22年間にわたりダバオ市長を務めるなかで築いてきた強引な犯罪撲滅モデルを、驚くほどのスピードで全国に広げていった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物続伸、ウクライナ紛争激化で需給逼迫を意識

ビジネス

午前の日経平均は反発、ハイテク株に買い戻し 一時4

ワールド

米下院に政府効率化小委設置、共和党強硬派グリーン氏

ワールド

スターリンク補助金復活、可能性乏しい=FCC次期委
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中