18年の怨念を超えて握手 マハティールと仇敵が目指す政権打倒
このNSC法は現在、マレーシアの政府系投資銀行「ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)」を舞台にした巨額(約2500億円)の汚職容疑で国際社会や米政府から批判を受けているナジブが起死回生を狙った窮余の策として打ち出した自らの権限強化といわれている。
ナジブはさらにイスラム法の導入に理解を示すことでイスラム勢力を自陣に引き込み、ムヒディン・ヤシ副首相やマハティールの息子、ケダ州知事を解任や辞職に追い込むなど「政敵追い落とし」で閣僚や地方自治体の長をイエスマンで固めるなど政権維持に躍起になっているのが現状だ。
そこに来て大御所のマハティールからは辞職を勧告され、それを拒否するとマハティールは与党「統一マレー国民組織(UMNO)」を離党して「ナジブ打倒」を掲げる新党を結成、全面対決の姿勢を鮮明にしたのだ。確かに一時に比べマハティールの政治的影響力、発言力は低下している。マハティール自身がそれを肌で感じているからこそ、人気の高いアンワルとの直接会談に裁判所に乗り込み、握手して見せたのだともいえる。そうした演出にはマハティールという今年91歳になった老練の政治家は抜きんでた能力を発揮するのだ。
ナジブ政権の危機感
政権打倒を掲げるマハティールとナジブ政権野党のPKRを実質率い、今や反ナジブ勢力のシンボルでもあるアンワルとの「18年の隔絶」を超えて実現したこの会談は、事実上は反ナジブ野党勢力のリーダー同士による「政権打倒にむけた共闘」を内外に示す結果になったのはだれの目にも明らかだった。
ナジブが権力維持に躍起になるのはこのまま議会解散がない場合、次回総選挙が2018年と3年もの時間があるという背景がある。つまり3年間もの長期間台頭する野党勢力を抑え込むために必要な手を着々と打ち、そしてあの手この手を次々と繰り出す必要性を感じているというわけだ。それはまた一種の焦りであり、危機感の裏返しであると野党勢力は指摘する。
国営通信社のベルナマ通信はマハティール・アンワル会談について与党UMNO副党首の「会談は非常に利己主義的であり、マハティールの行動は必死で死にも狂いにみえる」という言葉を引用して伝え、取るに足らない会談であることを印象付けようとしたこともそれを裏付けているといえるだろう。
イスラム化の真の目的
マレーシアはナジブのイスラム化が隠れ蓑になってイスラム過激組織やそのメンバーが暗躍する危うい兆候を見せている。今年7月にバングラデシュの首都ダッカで起きた日本人7人も犠牲となった人質テロ事件の犯人2人がマレーシアに留学していたことが判明しているほか中東やバングラデシュ、インドネシアなどから過激な思想を持ったイスラム教徒が流入しているのだ。