最新記事

アメリカ社会

アメリカの「ネトウヨ」と「新反動主義」

2016年8月30日(火)16時50分
八田真行(駿河台大学経済経営学部専任講師、GLOCOM客員研究員)

新反動主義はカリフォルニアン・イデオロギーの不出来な息子

 新反動主義の論客(?)としては、とりあえず以下に挙げる二人を押さえておけばよいように思う。

・Mencius Moldbug
 新反動主義の名付け親と目されるのがブロガーのメンシウス・モールドバグである。これはペンネームで、本名はカーティス・ヤーヴィンと言う。Menciusは孟子のことだが、関係はあまり無さそうだ。

 この人は2007年ごろからUnqualified Reservationsというブログで新反動主義についてやたらと長い記事をいっぱい書いた人で、正直私にしても全ては読み切れていないのだが、まあ上で書いたようなことが延々と述べられているのである。

 ちなみにヤーヴィンの本業はシリコンバレー在住のソフトウェア・エンジニアで、Urbitというオープンソース・ソフトウェアを開発し、Tlonというスタートアップをやっている。これにもピーター・ティールが出資しているのだが、ヤーヴィンが関数型プログラミング言語のカンファレンスに呼ばれたところ、彼の特にレイシズムに関する主張を嫌う他の講師がボイコットするということもあったらしい。Haskell使いのはしくれとして、私もなんだかなあと思うわけですが...。ちなみにこのもめ事で主催者側を擁護したのが誰あろう、エリック・レイモンド編注)ですよ。

Nick Land
 ニック・ランドは元々ジョルジュ・バタイユなどを研究していた英ウォーリック大学の哲学講師だったらしいのだが、現在は大学を辞して中国・上海に移住し、元の教え子たちを含む信奉者と出版社(?)をやっているようだ。彼が自分のブログに書いたDark Enlightenmentという一連の文章が新反動主義界隈では有名で、Dark EnlightenmentとNeoreactionismを同一視する人もいる。

 私が新反動主義がおもしろいと思うのは、反権威主義、能力主義、自由至上主義などといった道具立ての大半が、昔からあるテクノユートピア的な発想というか、ハッカー思想を生んだカリフォルニアン・イデオロギー的なものとそんなに遠くないように思われるからである。

 カリフォルニアン・イデオロギーをばらばらに分解して組み立て直したら、なんだか変な異形のものになったという気がする。北朝鮮のような収容所国家がマルクスの資本(論)の「利子」だとすれば、新反動主義はカリフォルニアン・イデオロギーの不出来な息子と言えなくもない。


※当記事は「八田真行さんのブログ」からの転載記事です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

10月の全国消費者物価、電気補助金などで2カ月連続

ビジネス

欧州新車販売、10月は前年比横ばい EV移行加速=

ビジネス

ドイツ経済、企業倒産と債務リスクが上昇=連銀報告書

ビジネス

日産、タイ従業員1000人を削減・配置転換 生産集
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中