最新記事

アメリカ社会

アメリカの「ネトウヨ」と「新反動主義」

2016年8月30日(火)16時50分
八田真行(駿河台大学経済経営学部専任講師、GLOCOM客員研究員)

民主主義に絶望した自由主義者が新反動主義者になる

 このあたりですでに正気の沙汰ではないと思う人も多いと思うが、私がこの話に興味を持ったのは、新反動主義者の少なからぬ人数が元リバタリアンであり、シリコンバレーを闊歩する技術者や起業家、ベンチャーキャピタリストの類にもそれなりに信奉者がいるらしい(そして、これから増えていく可能性がある)ということである。議論も、LessWrongやRedditのようなサイバーリバタリアンかぶれが集まる掲示板で主に行われている。

 自由と民主はセットのように思い込みがちだが、実のところ、元々リバタリアニズムには民主主義否定の要素があった。宗教や伝統を排して経済的自由と個人的自由を追求するのがリバタリアニズムだが、民主主義は宗教やらと同様衆愚による自由追求への制約と見なされるわけである。歴史上、共産主義に幻滅した人が転向してファシストやらネオコンやらになるということはよくあったわけだが、民主主義に絶望した自由主義者が新反動主義者になるわけだ。

 最近何かと話題のピーター・ティールは、2009年に「私は、自由と民主が両立するとはもはや思わない」と書いた。ティールは元Googleのエンジニアであるパトリ・フリードマン(「自由のためのメカニズム」を書いたデヴィッドの息子、経済学者ミルトンの孫)と組んで、Seasteading(海上入植)というのを主導しているが、これは民主主義的な体制の下でリバタリアン的な政策が通る可能性は無いので、じゃあ新しく海の上かどこかにリバタリアンのお友達だけが住む国を作ればいいんじゃないの、という話である。

 現在の国家は大きすぎるので、都市くらいの単位の小国家がいくつか出来て、その間で様々な制度を試して住民獲得競争をすればよい、という考え方が背後にある。こうした発想がこじれて変な方向に向かったのが新反動主義と言えそうだ。

 更に、自分の自由追求と他人の自由追求(の手助け)というのは直接的には関係ないわけで、ここにレイシズムが付けいる余地がある。いわゆるAlt-rightは白人至上主義と関連づけられて語られることが多いのだが、私の印象では、新反動主義は白人は白人だから優れている式のトートロジカルなレイシズムではなくて、能力・知能差別に力点を置いている。

 そもそもそれはどうなんだという議論もあるだろうし、結局白人やアジア人よりも黒人やヒスパニックは知能が低いから差別されて当然みたいな遺伝学もどきの優生思想に落ち込んでしまうのでしょうもない話なのだが、しかしある意味でこちらのほうが素朴な宗教的・歴史的白人至上主義よりも悪質と言える。

 というのも、人種差別は優等とされた人種以外に支持を広げるということはあり得ない(し、どのみち白人は減りつつある)が、能力差別であれば技術者等にはそれなりになじみが良く、根強い支持があり、世界に広がる可能性があるからである。IQによる選別という形ならシンガポールなどですでに取り込まれているし、おそらく中国のような社会でも親和性のある考え方なのではないか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:停戦はトランプ氏の「大誤算」か、イラン体制健

ワールド

イラン、和平交渉「不合理」 イスラエルのレバノン攻

ワールド

イランの革命防衛隊、ホルムズ海峡で機雷回避するため

ワールド

北朝鮮、6─8日に戦術弾道ミサイルの弾頭実験など実
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 2
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 3
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命防衛隊と消耗戦に
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 6
    キッチンスポンジ使用の思いがけない環境負荷...マイ…
  • 7
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 8
    戸建てシフトで激変する住宅市場
  • 9
    アメリカとイランが2週間の停戦で合意...ホルムズ海…
  • 10
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 4
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 5
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 8
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 9
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 10
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中