最新記事

オリンピック

オリンピック最大の敗者は開催都市

2016年8月23日(火)17時11分
クリストファー・コープマン(米ジョージメイソン大学研究員)、 トマス・サヴィッジ(米ジョージメイソン大学准教授)

Leonhard Foeger-REUTERS

<オリンピック開催都市には新たな投資や観光客がやってきて、長期的に経済を活性化するというのは、IOCの宣伝文句であって事実ではない。現実はむしろその逆だ> (写真は、次の夏季五輪開催都市東京の知事として五輪旗をリオから引き継いだ小池百合子)

 オリンピックはスポーツの祭典だ。開催期間中は世界のほぼ2人に1人が、人生を懸けて戦うトップ選手の姿を観戦する。世界は感動のエピソードに酔いしれ、夢を見て、奮い立つ──だが、おとぎ話はここまでだ。現実を見渡せば、開催都市への経済波及効果が実際にはほとんどないことが判明する。人々の酔いも、一気にさめる。

【参考記事】リオは便乗商法が花盛り、五輪マークのコカインまで

 一見すると、オリンピック開催は経済活性化の切り札のように見える。壮大な新スタジアムを建設すれば建設業界は活況を呈し雇用も生まれる。その上、世界中から観戦に訪れた観光客もお金を落としてくれるとなれば、バラ色の未来を期待したくなる。

誇張される経済効果

 だが、オリンピック開催がもたらす経済波及効果は極端に誇張されている。国際オリンピック協会(IOC)は、2012年にロンドン五輪を開催したイギリスについて、開催後も10年近くは経済効果が持続し、海外からの投資や新しいビジネス機会も増えると予測した。根拠もなしに。そして4年後の今、イギリスは景気後退局面にある。

 リオ五輪のスローガンは「新しい世界」だったが、五輪後のブラジルに好況の未来は見えない。ブラジルが参考にすべき国は、2004年のアテネ五輪に巨額の資金を注ぎ込んだことが遠因となって2010年に財政危機を招いたギリシャだろう。

【参考記事】五輪開催コストは当初予算の「5割増し」が平均額

五輪後に残る負の遺産

 オリンピック関連施設の建設に多額の金がかかるのは周知の事実だ。そのうえで必ず大きな議論を呼ぶのは、「だれが建設費を負担するか」という問題だ。

 IOCは開催都市から多額の費用負担を引き出そうとする。IOCによる選考過程でも、競技施設の建設費用についてIOCの基準を満たす財政負担ができるかどうかが重要な評価ポイントとされる。晴れて開催都市となれば、IOCは見返りとして「長期に渡り持続する経済波及効果」があるというお墨付きを与える。

【参考記事】東京五輪まで「5年しかない」現実

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中