南シナ海裁定、中国国内で対立? 軍部が習主席に「強硬対応」促す
8月1日、南シナ海における仲裁裁定に対し、人民解放軍の一部からより強硬な対応を求める声が上がっているが、中国政府は米国との衝突誘発を恐れ、この圧力に抵抗している。写真は南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島の美済(同ミスチーフ)礁。2015年5月、米軍提供(2016年 ロイター)
南シナ海における仲裁裁定に対し、人民解放軍の一部からより強硬な対応を求める声が上がっているが、中国政府は米国との衝突誘発を恐れ、この圧力に抵抗している、と関係筋が1日明らかにした。
南シナ海の領有権をめぐり、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所に申し立てられた訴訟について、中国は参加することを拒絶。
中国の領有権主張を否定し、フィリピン政府の主張を認めた7月12日の同裁判所の裁定について、中国政府は「法的根拠がなく、米国政府がでっち上げた反中シナリオの一環としての茶番」と非難している。
裁定後、中国では国民主義的な感情が高まっており、散発的な抗議行動や、国営メディアにおいては強い調子の論説が見られた。
これまでのところ中国政府は、さらに強硬な行動をとる意欲を示していない。その代わり、中国の領域を防衛することを宣言しつつ、対話による平和的な解決を求めている。
しかし、自信を強めつつある中国人民解放軍の一部は、米国及び域内の同盟国を対象とした、恐らく武力を伴う、より強硬な対応を求めていることが、軍及び指導部と緊密な関係を持つ4人の関係者への取材から明らかになった。
軍との人脈を持つ関係者の1人は、「人民解放軍は準備を整えている」と述べた。「1979年に鄧小平がベトナムに対して行ったように、われわれも踏み込んでいくことで、相手の面目をつぶすべきだ」
中国の同盟国であったカンボジアのクメール・ルージュ政権を、当時のベトナム政府が退陣に追い込んだことに報復するため、中国が短期的にベトナムに侵攻した一件を引き合いに出して、同関係者は匿名を条件にロイターに語った。
習近平主席は、人民解放軍の支持を取り付けることに細心の注意を払っており、軍に対する指導力をしっかりと固めている。その指揮権が脅かされたことはない。
習主席は、総合的な軍事改革を監督しており、軍の戦闘能力を強化しているが、その一方、中国が経済減速も含めた国内の開発問題に対応するうえで、対外環境の安定が必要だとも述べている。同主席が議長役を務める20カ国・地域(G20)首脳会議が9月に開催されるまでは、中国は大きな動きを控えるだろうと考えられている。
だが、ハーグ裁定に対して軍の一部が態度を硬化させていることで、南シナ海における挑発的な行動や不慮の事件によって、より深刻な衝突へとエスカレートするリスクは高まっている。