最新記事

メディア

広告ブロック利用の急増に悩む新聞界──被害額は年218億ドルにも達する

2016年8月2日(火)16時00分
小林恭子(在英ジャーナリスト)

米大統領選でオンライン広告は大きく増えたが……。Mike Segar-REUTERS

<ヨーロッパでは4人に1人、アメリカでも10人に1人が広告ブロッカーを使っている。重くて目障りな広告を作ってきたツケだという。どうすれば読者の信頼を回復できるのか>

(新聞通信調査会発行の「メディア展望」7月号に掲載された筆者原稿に補足しました)

adblockreport-2.jpg

広告ブロックについての報告書

 ネット広告の表示を遮断するプログラム、通称「広告ブロック」が欧米を中心とした新聞界で昨年来大きくクローズアップされるようになっている。

 紙からデジタルへとニュースの配信先を大きく移動させつつある新聞界にとって、ネット広告が遮断されれば死活問題になりうる。

 調査会社「ページフェア」とソフトウェア企業Adobeによれば、広告ブロックによって失われた広告収入は昨年1年間で218億ドル(約2兆2321億円)に上る。

 世界新聞・ニュース発行者協会(WAN-IFRA)が4月末にまとめた報告書「広告ブロッキングー出版社にとっての意味と戦略」から、内容の一部を紹介したい。(ここでの「出版社」とは情報コンテンツをウェブサイトに出す主体=パブリシャーを指し、新聞社を含むニュースメディアの意味である。)

広告ブロックの現状とは

「広告ブロッカー(ad blockers)」はブラウザーに組み込まれるプラグインで、ブラウザーが広告をサイト上に読み込む前に表示を遮断する働きをする。一定の条件の下で何を遮断するかを広告ブロッカー側が決定する。

 デスクトップではドイツのEyeo(アイオー)社が開発した「AdBlock Plus」が最もよく使われている。5月時点で搭載数は1億という。これまでにも広告ブロッカーは使われてきたが、昨年から使用が急増した。そのほとんどが無料でダウンロードできる。

 モバイルでは、アップル社がiOS9を昨年9月に導入した際に、ブラウザー「サファリ」で使えるようにした。アンドロイド型のスマートフォンではブラウザー「ファイヤーフォックス」を使う際にAdBlock Plusを利用するか、「Ghostery Privacy Browser」を使う。デフォルトで入ってくるブラウザー「クローム」では広告ブロッカーのプラグインは使えない。

 広告ブロックは利用者の需要拡大につれて広がっており、出版社側がその利用自体を違法とする動きは成功していない。今年3月、南ドイツ新聞がアイオー社を相手取って訴訟を起こしたが、敗訴した。

 現在、世界中で広告ブロックを使う人は2億万人を超えている。

 ページフェアなどの調査によれば、欧州ではウェブ利用者の25%、米国では10%が利用中だ。日本は2%ほどと低い。欧州諸国の中ではドイツやフランスで比率が高い。

 消費者が広告ブロックを使う理由は「広告が目障り」、「個人情報が広告テクノロジーによって無限に共有されることへの懸念」、「ページの搭載時間(画面にコンテンツが表示されるまでの時間)が遅くなる」だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪肝に対する見方を変えてしまう新習慣とは
  • 3
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず出版すべき本である
  • 4
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 5
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 9
    ロシア軍が従来にない大規模攻撃を実施も、「精密爆…
  • 10
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 9
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中