最新記事

メディア

広告ブロック利用の急増に悩む新聞界──被害額は年218億ドルにも達する

2016年8月2日(火)16時00分
小林恭子(在英ジャーナリスト)

 広告ブロックの利用が広がれば、出版社にとってはデジタルの広告収入が減り、読者がフェイスブックやアップルなどの大手プラットフォーム上でニュースを読む傾向を加速させる可能性がある。フェイスブックはインスタント・アーティクルズを通じ、アップルはアップル・ニュースを通じて、それぞれのサービス内でニュースが直接読めるようにしてあるからだ。

 囲い込み化を歓迎するフェイスブックやアップルとは異なり、オープンなウェブ空間での広告収入に依存するグーグルにとって、広告ブロックは脅威だ。AdBlock Plusを提供するアイオー社にお金を払い、自社が提供する広告の一部を「ホワイトリスト化」(広告を遮断されないようにすること)する手段を取っている。

 広告主や「広告ネットワーク」(広告媒体のウェブサイトを多数集めて「広告配信ネットワーク」を形成し、その多数のサイト上で広告を配信する手法)にとっては望む対象者にリーチできなくなり、利用者からの情報を取得することもできなくなる。

 広告ブロック自体を遮断するソフトウェアや誰が広告ブロッカーを使っているかを調査するソフトウェアも販売されているが、WAN-IFRAは合法性に疑問を呈している。

出版社の対処方法は

 出版社にはいくつかの対処法がある。

 例えば「広告表示や搭載時間を向上させる」、「広告ブロックを利用する場合、閲読を有料で行ってもらうようにする」、「まだ広告ブロックがそれほど浸透していないモバイルでの閲読を勧める」など。記事と同じ体裁で制作・表示される広告、いわゆる「ネイティブ広告」も選択肢の1つだ。

 ノルウェーのヴェルデンス・ガング紙はウェブサイトの読者の中で、同紙のサイトをホワイトリスト化していない2万5000人に調査を試みた。48%が搭載時間が早まればホワイトリスト化を考慮する、47%が動く広告が無くなれば考慮する、28%がポップアップ広告が無くなれば考慮すると答えた。同紙は今後も、読者との対話を進めながらサイトの利用環境を向上させる予定だ。

 ドイツのビルト紙は昨年10月から、広告ブロックをする読者にはコンテンツを読ませないようにする仕組みを導入した。読者には広告ブロッカーの利用を停止してもらう、あるいはビルトのサイトをホワイトリスト化してもらう、あるいは毎月2・99ユーロ(約342円)を払って広告をやや少なくしたサイトを閲読してもらうようにした。導入後一か月で、それまでは広告ブロックの利用率が23%であったのが、一ケタ台に減少した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、最終的な債務再編まで何度も返済猶予か=ア

ビジネス

中国、来年も政府債発行を「高水準」に維持へ=関係筋

ワールド

ロシアがウクライナを大規模攻撃、3人死亡 各地で停

ワールド

中国、米国に核軍縮の責任果たすよう要求 米国防総省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中