最新記事

対談

現代の「日本のコンスティテューション」とはなにか~宇野重規×山本一郎対談(2)

2016年8月5日(金)19時22分
BLOGOS編集部

保守主義とは何か――反フランス革命から現代日本まで(中公新書)』の著者で政治学者の宇野重規氏とブロガーの山本一郎氏の対談。前回に続いて、今回は過去の日本政治にあって、今の日本政治には欠けているものは何か、そしてこれからの「保守主義」はどのようにして見いだすことができるのか、語り合ってもらった。【大谷広太、村上隆則(編集部)】

「保守」「リベラル」で思考停止するのはもうやめよう~宇野重規×山本一郎対談(1)

どこに向かって進歩するのか分からなくなったリベラル

山本一郎氏(以下、山本):「保守」の定義が曖昧になっている一方で、対する「リベラル」の劣化も指摘されています。社会学者の北田暁大さん(東京大学教授)をはじめとした学者のみなさんが、頑張ってリベラル再興のための議論をされています(「リベラル懇話会」)が、やはり進歩主義のかすみ具合は激しく、対する保守主義も立ち位置が見えなくなってきてしまいました。

 進歩主義に対して、きちんと内容を吟味し「ちょっと待てよ」というのが保守主義のポジションです。大きなエンジンと大きなブレーキがお互い機能しあうことで社会を発展させるという意味では、かつては進歩主義も保守主義も明確に存在していましたが、それが両方とも小さくなってしまうと、なかなか社会が良くならないし、相互に良い影響を与え合うようなオルタナティブも発生しない。それでは社会が前進していかないんじゃないかと、ジレンマを感じます。

【参考記事】「参院選後」の野党、国会、有権者のあるべき姿とは?――吉田徹・北海道大学教授に聞く

宇野重規氏(以下、宇野):仰るとおりです。保守よりも先に、進歩主義とかリベラルの方が、まずダメになりましたね。彼ら自身、自分がどこに向かっているんだか、さっぱりわからなくなっています。

山本:進歩の話でいうと、昔はテンポとしてもそんなに早くなく、たとえば企業も30年ぐらいかけて大企業になっていく世界でした。今それが、3分の1ぐらいのタイムスパンで企業も急に大きくなり、新しい技術があっという間に世界を席巻したりとなると、社会が技術や思想、概念を咀嚼する前に、次々に新しい状況が生まれてくる。スマホだ、IoTだ、クラウドだって(笑)。そんな社会になると、刹那的にならざるをえない面も若干あるのかなと。

宇野:保守の側も、フランス革命を批判する、社会主義を批判する、大きな政府を批判するといったように、敵が明確な時は良かったんですが、そうでない時代になると、一体何を保守しようとしているのか、よくわからなくなってくる。

山本:左翼系知識人と言われてきた人達が、いかに扇動的であり、いかに根拠なく社会をコントロールしようとしてきたかは、ネットの時代になって欺瞞が暴かれ始めると一気に輝きを失ってしまいました。彼らも別に悪気に満ちていたわけではないと思いますが、根拠なき啓蒙主義が結果的に「日本人を間違った方へ進ませていたに違いない」という理解に繋がり、コモンセンスになってしまい、推進力を失ってしまいました。

宇野:昔の革命主義者って、多分本当に信じていたんですよ。でも、今のいわゆる左翼とかリベラルと称する人達が、どこまで自分自身を信じているのか。何か建前を言っているのではないか、というのが透けて見えてしまうようになってしまいました。それが思想に対する信頼を失わせてしまうっていうのがありますよね。

山本:昔は日本の進むべき社会の発展型を明確に示そうというピュアな思いがあったと思うんですよ。だからこそ、革新し、問題を解決していくための課題設定や政策を主張していたことそのものは、悪くなかったと思うのです。

守るべきコミュニティを持たなくなった保守

宇野:逆に保守の側も、昔だったら自分達が守るべきコミュニティがはっきりしていた。例えば田中角栄は「新潟の生活を良くしたい」と。だから保守政治家は田舎を背負って、東京に来て、橋を作ったり、道路を作ったり。今から考えれば、どうしようもない利権政治だと思うかもしれないけど、彼らにしてみれば、守りたいコミュニティがはっきりしていたということでもあると思います。

 それが今や、保守政治家とされる人達はそのほとんどが東京生まれ東京育ち。自分の選挙区ともほとんど繋がりがなくて、その地域を守りたいと心から思っているのか、疑問に思うことがあります。「なんだか知らないけど、この地域を守ってくれているんだ。共同体を守っているんだ」と思える人がいなくなっていますよね。

 ただ、そういう生活感覚って、まだ残っていると思うんですよ。私は岩手県の釜石との付き合いがあるのですが、若い人たちが入ってきて、釜石を変えようとしている。彼らは地域の価値や風景、暮らしを"保守すべきもの"として再発見し、守っていく人間になりたいと感じている。僕はそういうタイプの"保守"に希望があるように思います。そういう人たちを、民進党がすくい取れるならいいんですが。

 政治家にも新たなラベリングが必要ですね。日本なりに「保守」の意味を再定義することを通じて、今までの「保守」「リベラル」とは違う形の新しいラベリングが生まれてくるんじゃないでしょうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中