最新記事

対談

「保守」「リベラル」で思考停止するのはもうやめよう~宇野重規×山本一郎対談(1)

2016年8月5日(金)16時03分
BLOGOS編集部

blogos160805-1-4.jpg

ナショナリズムや復古主義とは区別して考えるべき

山本:そう考えて行くと、民族主義的な人もそうですが、いわゆる保守的態度をとっている人が、「我々は保守だ」あるいは「保守本流だ」「保守主義者だ」と言っていることの傲慢さというか勘違いというか、本来のバークの思想としての保守主義ともっともかけ離れた考え方だと思います。これに対しては、どこかで修正をかけていかなければいけないのに、なかなか合理的な説明を果たす機会に恵まれず、結果として広く誤解がひろまってしまっています。解説を怠っていますよね。

 実際には「保守とは何か」ということに関して、深い議論が戦後だけでなく戦前にもあり、場合によっては江戸時代の良かった面の掘り起こしも必要なはずです。日本が守るべき日本の伝統、知恵の再発見という観点があまり見受けられないのは残念なことです。「日本人とはなんぞや」みたいなものも含めて、次の世代にいかにブリッジをかけていくのか、という視点で考えなければいけないのではないでしょうか。

宇野:「ブリッジをかける」というのは良い言葉ですね。保守主義者って、やっぱりブリッジをかけていく人のことだと思うんです。革命でスパンと切っちゃうんじゃなくて、どう繋いでいくかという視点を持っている人。

 歴史の転換点って、結構危うい時もあったと思うんです。日本でも明治維新と敗戦という2つの大きな断絶がありましたが、その断絶を認めながらも、どうやって連続性を持たせて繋いでいくかが知恵の見せ所でした。自分達が昔から大切にしてきた価値は何かということを、常に今の世代から確認し直し、検証していける、そういう態度が必要ですよね。

山本:本当は、日本にもバークのような考え方を持っている人たちがいると思うんですね。そういう方々が、分かりやすく「これが保守主義の本流のものですよ」と提示していただけたらいいなと。バークが何を考えて、どういう主張をしたのかということを理解し、「自由」という重要な起点から考えて、何を伝統として残すべきなのかを、もう一度みんなで再考する必要があると思います。

 今まで言われてきた、いわゆる日本の"保守"というのは、「保守的態度」なのであって、違うものなんですよと、うまい具合に説明したいといつも思っています。単に国民が天皇を崇敬する伝統を守るのが保守なんだと言われても、それが本来の意味での保守主義とは違うということになるはずなんですけど、そういう人達も「保守」を名乗るわけですよ。

宇野:仰るとおりです。保守主義というのは、まず、ナショナリズムとは区別するべきです。むしろ多様性に開かれていることが大切ですし、恣意的に過去と紐付けてしまうような、ある種の復古主義とも違うわけです。

 要するに、社会が変化しているということを認めながらも、急速な変化に対してはスローダウンしてブレーキをかけ、検証しながら、前に進んでいくということでしょう。

 だから、ただ「昔はよかったな」というのとも違います。着実に前に進むんですが、過去との連続性を大切にしながら進んでいく。そういう意味での「保守主義」が本当に日本にあったのかというと、不安になりますね。(後編に続く)

blogos160805-profile1b.jpg宇野重規(うの しげき)
1967年東京都生まれ。東京大学法学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。東京大学社会科学研究所准教授を経て、2011年より同教授(政治思想史、政治学史)。著書に『政治哲学へ――現代フランスとの対話』(東京大学出版会、渋沢・クローデル賞ルイ・ヴィトン特別賞)、『トクヴィル 平等と不平等の理論家』(講談社、サントリー学芸賞)、『〈私〉時代のデモクラシー』(岩波新書)、共編著に『希望学』(東京大学出版会)など。

blogos160805-profile2b.jpg山本一郎(やまもと いちろう)
1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる。統計処理を用いた投資システム構築や社会調査を専門とし、東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員、東北楽天ゴールデンイーグルス育成・故障データアドバイザーなど現任。東京大学と慶應義塾大学とで組成される「政策シンクネット」の高齢社会研究プロジェクト「首都圏2030」の研究マネージメントを行うなど、社会保障問題や投票行動分析に取り組む。著書に『ニッポンの個人情報 「個人を特定する情報が個人情報である」と信じているすべての方へ』(翔泳社)、『読書で賢く生きる。』(ベスト新書)ほか。


『保守主義とは何か――反フランス革命から現代日本まで』
 宇野重規
 中公新書

※当記事は「BLOGOS」からの転載記事です。
blogoslogo200.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請件数、1万件減の21.4万件 継

ワールド

EU・仏・独が米を非難、元欧州委員らへのビザ発給禁

ビジネス

中国人民銀、為替の安定と緩和的金融政策の維持を強調

ワールド

ウクライナ和平の米提案をプーチン氏に説明、近く立場
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 6
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 7
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中