大荒れの民主党大会で会場を鎮めたミシェルのスピーチ
党大会には予備選で負けた候補を支援する代議員も集まるので、どの党大会でも会場には不満を抱える党員がいる。だがこれほど無礼な振る舞いは近年なかっただろう。(マーティン・ルーサー・キング・ジュニアやロバート・ケネディが暗殺された)1960年代の激動の時代以来ではないかと、政治評論家が語る程だ。
サンダース支持のマークレイやシルバーマンまで野次で妨害された。そんな大荒れの雰囲気を収めたのが、ミシェル・オバマだった。彼女がヒラリー支援を宣言したときに、サンダース支持者からは、ブーイングや「バーニー! バーニー!」というチャントが起こったが、「8年前に(予備選に敗れたヒラリーが)指名を得ることができなかったとき、彼女は怒ったり、幻滅したりはしなかった」と、スピーチで間接的にたしなめた。
アメリカのポジティブな面に焦点を絞ったミシェルのスピーチは、怒りや憎しみをかきたてるトランプとは対称的で、特に次の部分は聴衆全体の心を掴んだ。「私は、奴隷が建てた家(ホワイトハウス)で、毎朝目覚めます。そして、私の娘たち、賢くて美しい2人の若い黒人女性がホワイトハウスの芝生で犬と戯れるのを眺めます。ヒラリー・クリントンのおかげで、私たち全員の息子や娘たちは、女性が大統領になるのを当たり前だと思えるようになるのです」
ミシェルに続くウォーレンとサンダースのスピーチでも野次やブーイングは起こったが、ミシェルのスピーチを境に雰囲気は次第に落ち着いていった。
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党大会初日を終えた時点で、以前から取材を続けているサンダース支持者の感想を聴くと、彼らが二つに分かれ始めているのを感じる。
一つは、「バーニー(サンダース)が何を言おうが、ヒラリーには絶対に投票しない。ヒラリーも民主党も腐っている」という、「Bernie Or Bust(バーニーでなければ破壊)」のグループだ。
もう一つは、「トランプが勝ったら、彼が最高裁判事を任命することになる。その場合には、長年かけてリベラルが勝ち取ってきた、中絶の権利、同性婚の権利、人種や宗教による差別の禁止、などが奪われてしまう。ヒラリー当選を応援するしかない」と、危機感を覚えるグループだ。
サラ・シルバーマンは、会場でブーイングをしているサンダース支持者に向かって「ちょっと言わせてもらえる? Bernie or Bustの人たち、あんたたち、馬鹿げているわよ」と、話しかけていたが、私が取材したサンダース支持者の一人も「彼らの行動は、バーニーがせっかく始めた改革を妨害する逆効果しかない」と苛立ちを露わにしている。
だが前回2008年の選挙でヒラリーを応援した民主党員の1人は、「落胆しているサンダース支持者の気持ちはわかる」と言う。「選挙では、感情の投資が大きい。すべてをつぎ込んだ後ですっかり失うのは辛いものだ。特に、これが初めての人は、傷も深い。立ち直るのには時間がかかるだろうね」と。