最新記事

南シナ海

逃げ切るのか、中国――カギはフィリピン、そしてアメリカ?

2016年7月26日(火)18時06分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

人民大会堂で微笑み合うライス米大統領補佐官と習近平国家主席(7月25日) How Hwee Young-REUTERS

 ASEAN外相会議は共同声明で南シナ海に関する判決を盛り込めないまま共同宣言を出した。同じ日にアメリカのライス大統領補佐官が人民大会堂で習近平に会う一方、フィリピンはラモス元大統領を特使として訪中させる予定だ。

共同声明に盛り込めなかった判決――中国は国内で勝利宣言!

 ラオスのビエンチャンで開催されていたASEAN(東南アジア諸国連合)外相会議は、25日、ようやく共同声明発表に漕ぎ着けた。しかし、最大の焦点であったはずの南シナ海における中国の主張が違法であるという仲裁裁判所の判決は盛り込めなかった。

 昨日のコラム<チャイナマネーが「国際秩序」を買う――ASEAN外相会議一致困難>に書いたように、ラオスとカンボジアが徹底して中国側についたからだ。ラオスは議長国で発言しにくい側面もあったかもしれないが、その分だけ、カンボジアが頑として判決に触れることに反対し、押し切ってしまった。

 共同声明は「南シナ海での最近の動きに深刻な懸念」を表明するにとどまり、これは「中国による人工島造成などを念頭にしたものだ」と日本のメディアは報道しているが、中国では真逆だ。

「南シナ海での最近の動きに深刻な懸念」という表現は、「南シナ海と関係のないアメリカが"航行の自由"という偽のスローガンを掲げて、それを口実に南シナ海に軍事的に介入している事実を指している」として、中国の中央テレビ局CCTVは、「勝利宣言」を掲げている。

 共同声明にはほかに「南シナ海での航行や飛行の自由の重要性を再確認」「国連海洋法条約などの国際法に従い、平和的に紛争を解決する必要性を再確認」「南シナ海の埋め立てなどの行動を自制する重要性を強調」などがあるが、「航行や飛行の自由」および「国連海洋法条約などの国際法に従い、平和的に紛争を解決する必要性」などは、中国が主張しているものである、「これも中国の主張が認められた」と凱旋を讃えている。

 特にアメリカは国連海洋条約に加盟していないのだから、「早く加盟して国際法を守れ」と、中国は居丈高である。

 最後の「南シナ海の埋め立てなどの行動を自制する重要性」に関しては、中国がかねてから主張してきた「南シナ海行動宣言」に置き換えている。

「南シナ海行動宣言」とは、2002年にASEANと中国との間で合意した南シナ海の領有権争いを抑止するための宣言で、2010年には法的拘束力を有する「南シナ海行動規範」として制定しようという動きが進められてきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中