最新記事

南シナ海

逃げ切るのか、中国――カギはフィリピン、そしてアメリカ?

2016年7月26日(火)18時06分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 判決が出た後も、中国はひたすら、この宣言で十分だと主張し、フィリピンの仲裁裁判所への提訴そのものが、「南シナ海行動宣言」の精神に違反しており、信頼関係を裏切ったと激しく非難してきた。

 したがって、結局は「判決は紙くず」で、中国へ全面勝利を収めたというのが中国政府の宣言だ。CCTVを中心として、中国メディアは勝利に沸き、気炎を上げている。

ライス大統領補佐官と習近平国家主席の会談

 そこに重ねるように、7月25日、アメリカのライス大統領補佐官(国家安全担当)が北京を訪問し、人民大会堂で習近平国家主席と会談したことを、26日の中央テレビCCTVは、繰り返し伝えた。CCTVそのものよりも、比較的ブレが少ない「新浪軍事」のサイトでご覧いただきたい。

 ライスさんが、「まるで尊敬を込めて見上げる姿勢」と、「まるで愛おしさを込めて」、その視線に応える習近平氏の「まなざし」がクローズアップされた。

「まるで」を続けて申し訳ないが、それは「まるで」、アメリカが中国にひざまずいている姿を印象付けようとしているように筆者には見えた。印象付ける対象は中国人民であり、国際社会へのシグナルでもあろう。

 習近平氏は「私は過去3年間、オバマ大統領とは何度も会っており、中米新型大国関係で認識を共有している」と述べ、ライス補佐官は、にこやかに「はい、オバマ大統領も今年9月のG20で習近平国家主席ともう一度お会いできることを大変たのしみにしています」と答える。二人は中米の安定的関係がいかに国際社会に対して重要であるかを讃えあった。

 この姿を、「南シナ海勝利宣言」とともに報道するのだ。

 中宣部の「まやかし」の力は、どこまでいくつもりだろう。

ラモス元大統領が特使として中国訪問予定

 まだASEAN外相会談が開幕したばかりの24日夜、CCTVがフィリピンのラモス元大統領(1992年~98年)(88歳)が南シナ海問題の特使として訪中することになったと報道した。

 それは筆者が「中国空海軍とも強化――習政権ジレンマの裏返し」で「フィリピンの新大統領が親中路線を翻(ひるがえ)す」を書いた後の出来事だった。

 ということは、フィリピンのドゥテルテ大統領は、ASEAN外相会談では「仲裁案を共同声明に盛り込め」と強く主張しながら(其のポーズを取りながら)、一方では「前言を翻さない方向」(つまり親中路線)で動いていたことになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マスク氏、政権ポストから近く退任も トランプ氏が側

ワールド

ロ・ウクライナ、エネ施設攻撃で相互非難 「米に停戦

ビジネス

テスラ世界販売、第1四半期13%減 マスク氏への反

ワールド

中国共産党政治局員2人の担務交換、「異例」と専門家
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中