最新記事

アフリカ

ジンバブエの果てしない経済失政に立ち向かう市民運動

2016年7月22日(金)18時38分
コナー・ギャフィー

Philimon Bulawayo-REUTERS

<歴史に残る2億%のハイパーインフレを経て、経済危機と食糧不足のダブルパンチに苦しむ国民から、独裁者ムガベの失政を問う非暴力の市民運動が立ち上がった> (写真は、大統領支持派の集会)

 ジンバブエのロバート・ムガベ大統領(92)の支持者は20日、首都ハラレに集結し、ムガベ政権の存続を支持するデモを行った。過去2週間、ムガベ政権に批判的な宣教師が率いるデモが続いたのに対抗した。参加者は約1000人で、与党・ザヌPF党の党員が多かったという。

 ジンバブエは経済危機と、国内各地で餓死者が出る深刻な食糧不足に苦しんでいる。外貨代わりのダイヤモンドは底を尽き、友好国の中国ももはや、無利息融資の借り換えには応じてくれない。先月はついに、国軍兵士の給料も出なかった。

【参考記事】ジンバブエ「国庫残高217ドル」の焦り

 2007~2008年のハイパーインフレーションで自国通貨をとうに放棄したジンバブエは、国内の米ドル不足への対策として、自国版米ドル紙幣を印刷する計画だが、それも失政の上塗りではないかと市民の不興を買っている。

【参考記事】ジンバブエの旗とハイパーインフレ
【参考記事】ジンバブエに学ぶ2億%インフレの退治法

 失業率が高いうえ、エルニーニョ現象による被害が南アフリカ諸国の中でも最も深刻で、拡大する干ばつや食料不足に見舞われている。子どもを支援する国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」によると、2016年末までに数千人の子どもが餓死する恐れがあるという。ジンバブエ北西部の乾燥帯に位置するビンガ地区では、過去1年半の間に200人の子どもが死亡した。

 そうした危機への対応を政府に促すため7月上旬、「ステイ・アウェイ(こっちに来るな)」と銘打った抗議運動が行われた。主要都市の街頭からは人影が消え、経済活動が一時マヒ状態に陥った。運動を呼びかけたのはエヴァン・マラリエ。ハラレを拠点に活動する宣教師で、ソーシャルメディアを利用した市民運動「#ThisFlag(この国旗)」を開始し、一躍注目を集めるようになった。

ムガベの経済失政を批判

 マラリレは、ムガベ政権の失政によって、ジンバブエの経済状況や生活水準が悪化の一途をたどっていると批判。本誌の取材に対し、運動の最終的な目的は、2018年に実施される総選挙で有権者を結束させ、ムガベを退陣させることだと語った。

 マワリレはデモの首謀者として12日に逮捕されたが、裁判所は訴訟を棄却した。裁判の直前になって最大で懲役20年に処される国家転覆罪が盛り込まれ、公平な裁判を受ける権利が妨げられたと裁判所は指摘した。ムガベ一辺倒だったジンバブエの変化を感じさせる瞬間だった。

 マワリレは現在、隣国の南アフリカ共和国に逃れている。

 ムガベは、マワリレは「真のキリスト教宣教師ではない」と一蹴し、「#この国旗」運動は外国政府の支援を受けた陰謀だと非難している。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

自動車関税に伴う値上げ「全く気にしない」=トランプ

ビジネス

UBSグローバル、S&P500種の25年末目標を6

ワールド

トランプ氏、5月中旬にサウジ訪問を計画 2期目初の

ビジネス

日中韓貿易相会合、地域貿易の促進で合意 トランプ関
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中