最新記事

インタビュー

歴史感を伴った根拠なき自信を持て

2016年7月22日(金)16時03分
WORKSIGHT

 また、企業活動についていえば、これからどんどんデザインの重要性は薄らいでいくと思います。というのも、先進国、先進都市においては、みんなそこそこデザインのいいところに暮らして、そこそこデザインのいいものに囲まれているからです。とんでもなくひどいデザインのものって見かけないでしょう? デザインがおおよそ均質化してレベルも高くなっているから、いまやデザインは差別化のポイントになりにくい。それも企業が心得ておくべき1つの要素かなと思います。

 もう1つ、日本企業には日本や東京の価値を底上げする期待も寄せられていると思います。東京オリンピックを控えて盛り上がりを見せていますが、オリンピック後もその活力を維持できるとは思えません。世界的に見て日本という国、そして東京という都市の魅力は相対的に低下しています。このまま何も手を打たなければ、日本や東京の地位は激しく落ち込んでいくでしょう。

 集団が活性化するための方策はただ1つ、外部から人とお金が入るようにすることです。民間主導で海外の企業や投資家、あるいは難民の受け入れを行っていけば、この流れを食い止めることができるはず。そういう意味では、国籍を問わない人材登用や社内での英語の普及など、先進的な取り組みができる企業にも活路が開けるかもしれません。

作り手に"根拠なき自信"が求められている

 物欲レスな消費者に対して、企業はどこを狙って矢を放てばいいのか。消費者ニーズやマーケットニーズに合わせたビジネスでうまくやっている企業もあるでしょうけれども、そういう企業は時代のトップに立てません。

 なぜなら今や企業の開発スピードよりマーケットの変化のスピードの方が圧倒的に早いからです。マーケットを見ながら細かく対応していこうとすると、絶対にマーケットの先に出られない。特にソーシャルメディアが発達してからはますますその傾向が強まっています。新商品が出たその日から、あるいは見本市に出た日から、製品レビューがどんどん出る時代です。企画、開発、販売、レビューのプロセスを悠長に構えていては確実に後れを取ります。

 いま広告業界が苦戦しているのは、あまりにもマーケティングの力が強過ぎるからだと思います。こういうタレントが人気だ、こういう表現手法がよさそうだといった分析に力を入れ過ぎた結果、広告がつまらなくなっているのではないでしょうか。今はクライアントの要望を十二分に聞いてからプレゼンテーションするのでは遅いんです。こういうことをやりませんかと働きかけて、クライアントを動かすくらいでなければマーケットの先を行くことはできないんですよ。

 これからの世界を想像し、自分なりの仮説を立てて開発していく。それが商品なりサービスなりをリリースするときの実態に合っているだろうと考えてやっていくしかないんですね。ただし、いい仮説を立てるためには、科学者のように膨大なリサーチが必要になる。今日明日のマーケティングではなく、歴史の流れを考える力が必要になる。これは僕自身が本を執筆する際の姿勢でもあります。視界不良の中でもスピード感を持って突き進まなくてはならない時代、作り手には"歴史感を持った根拠なき自信"が求められるのです。

WEB限定コンテンツ
(2016.1.7 中央区のグーテンベルクオーケストラ オフィスにて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Kei Katagiri

wsSugatsuke_site2.jpg株式会社グーテンベルクオーケストラは菅付氏が率いるクリエイティヴ・カンパニー。さまざまな分野で編集、ディレクション、また企業のコンサルティングなどを手掛けている。
http://gutenbergorchestra.com

* スティーブ・ジョブズは生前、人がアップルで働きたいと思う理由について、「アップルでしかできないことがあるからだ」と説明している。(『ジョブズ・エッセンス――世界を変えた6つの法則』(ピーター・サンダー著、満園真木訳、辰巳出版)より)

** 菅付氏によれば、アメリカでも若手クリエイターの手によるハンドメイドの商品や、カスタムメイド/オーダーメイドでジーンズやデニムシャツを作る小さな店に人気が集まっているという。

wsSugatsuke_portrait.jpg菅付雅信(すがつけ・まさのぶ)
1964年生宮崎県生まれ。株式会社グーテンベルクオーケストラ 代表取締役、編集者。角川書店『月刊カドカワ』編集部、ロッキグンオン『カット』編集部、UPU『エスクァイア日本版』編集部を経て、『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』の編集長を務めた後、有限会社菅付事務所を設立。出版からウェブ、広告、展覧会までを編集する。書籍では朝日出版社「アイデアインク」シリーズ(共編)、電通「電通デザイントーク」シリーズ(発売:朝日新聞出版)、平凡社のアートブック「ヴァガボンズ・スタンダート」を編集。著書に『東京の編集』『はじめての編集』『中身化する社会』など。2014年1月にアートブック出版社「ユナイテッドヴァガボンズ」を設立。2015年に株式会社グーテンベルクオーケストラに社名変更。下北沢B&Bにて「編集スパルタ塾」を開講中。多摩美術大学で「コミュニケーション・デザイン論」の教鞭をとる。

※当記事はWORKSIGHTの提供記事です
wslogo200.jpg


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中