トルコにあるアメリカの核爆弾はもはや安全ではない
インジルリクに保管されているアメリカの核兵器を保護する予防措置は理にかなっているとはいえ、それはトルコが安定していて、アメリカと友好関係にあるという一連の前提があるからこそだ。インジルリク基地の司令官が基地から連行される光景が不安をかき立てるのは、その図がまさにその前提を揺るがしているからだ。
トルコの治安情勢はしばらく前から悪化しつつある。アメリカの国防総省は今年、テロの脅威を理由に、インジルリクから軍人と民間人の家族を避難させた。その後4月には、地元の極右団体に所属する2人が、基地内で米軍兵士に頭から大きな袋をかぶせようとした。現場は、核兵器の保管場所から約1キロの場所だ。
そして今回、エルドアン政権は、アメリカがクーデターに関与した可能性をほのめかした。アメリカに亡命中で、トルコ国内に多くの支持者を持つイスラム教の指導者フェトフッラー・ギュレンが、クーデターの首謀者と見ているからだ。
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不安定なトルコの情勢を見れば、そもそもなぜアメリカの核兵器がトルコに置かれているのか疑問に思うかもしれない。しかも、トルコには核爆弾を搭載する航空機がない。アメリカの核兵器を保有している他のNATO加盟国は、通常兵器と核兵器の両方を搭載可能な航空機(Dual-Capable Aircraft、略してDCA)を保持しており、有事の際には使用できるようになっている。だが、トルコにはそうした航空機が存在しない。つまり、インジルリク空軍基地の位置づけは、単なる小さな保管スペースに過ぎない。
別のNATO国に移管せよ
トルコより安定して、運用面からも効率的な備蓄場所もあるはずだ。直ちにトルコから核兵器を撤去するのを思いとどまる理由は何もない。実際にアメリカは2001年、核兵器の管理が万全でないことが明るみに出たギリシャから核兵器を引き揚げ、アメリカに持ち帰った。
専門家の中には、ロシアとの関係悪化が深刻化するなかで、今はNATOの同盟国に配備するアメリカの核兵器を削減する時ではない、という主張もある。それなら、トルコ以外のNATO加盟国に再配備すればよい話だ。すでにアメリカは、核兵器を備蓄する多数の格納施設を欧州諸国に建設している。
では欧州の再配備先はどの国か。最初にリストから消えるのはベルギーとオランダだ。両国の基地の安全対策は最低レベルで、セキュリティー侵害が繰り返されている。