スヌーピーとデザインと村上春樹――ブックデザイン界の巨匠チップ・キッドに聞く
<村上春樹作品のアメリカ版の装丁などで知られる「世界で最も有名なブックデザイナー」のチップ・キッド。スヌーピーミュージアム(東京・六本木)の開館を機に来日したキッドに、『ピーナッツ』からグラフィックデザインまで、話を聞いた>
東京・六本木に今春オープンしたスヌーピーミュージアムは、米カリフォルニア州にあるチャールズ・M・シュルツ美術館の世界初のオフィシャルサテライト。故チャールズ・シュルツが1950年に生み出した新聞コミック『ピーナッツ』は、連載開始から65年以上経った今も世界中で人気が高く、子供から大人まで、日本にもファンが多い。
スヌーピーミュージアムで現在開催中のオープン記念展「愛しのピーナッツ。」は、詩人の谷川俊太郎から作家の吉本ばなな、映画監督のスティーブ・マーティノまで、日米の文化人ら12人――全員、大人のピーナッツ・ファンだ――が、お気に入りのピーナッツについて、映像や秘蔵のアイテムを披露する展覧会。その1人が、世界的なグラフィックデザイナーのチップ・キッドである。
アメリカの老舗文芸出版社クノップフに所属し、約30年間、ブックデザインを手がけてきたデザインの第一人者だ。マイケル・クライトンの『ジュラシック・パーク』や、村上春樹作品のアメリカ版の装丁などで知られる。「世界で最も有名なブックデザイナー」と称されることもあるが、その理由のひとつは、150万回以上も視聴されているこのTEDトークかもしれない。ブックデザインの魅力をユーモアたっぷりに伝えたプレゼンテーションだ。
スヌーピーミュージアム開館を機に来日したチップ・キッドに、ピーナッツやグラフィックデザイン、米出版界の現状などについて話を聞いた。まずは、デザイナーとしてチャールズ・シュルツからどのような影響を受けたのだろうか。
「概念的なことだが、シュルツの"減らすセンス"に影響を受けた。人間の感情を取り上げるにも、根源的なところまで絞り込む。象徴的で独特で、絵はとてもフラット。最小限の線と色で、力強くひとつのことを伝える。彼は技巧的には少ないもので、多くを伝えることに長けていた」
キッドは生前のシュルツに会っていないが、シュルツ死去の1年後、ピーナッツのビジュアルブック『Peanuts: The Art of Charles M. Schulz』(2001年、邦訳未完)を未亡人らの協力を得て完成させた。さらに最近も、『スヌーピーとチャールズ・M・シュルツの芸術――必要なものだけを(Only What's Necessary)』(邦訳は今年4月、奥田祐士訳、DU BOOKS)を刊行。他にも、コミック『バットマン』に関する本などを著している。