最新記事

同性愛

銃乱射はテロか憎悪か、思い当たり過ぎるフロリダの闇

2016年6月13日(月)17時38分
ウィンストン・ロス

Steve Nesius-REUTERS

<史上最悪の銃乱射はテロだったのかヘイトクライムだったのか。襲われたのがゲイが集まるナイトクラブだったことで、アメリカ人は反応に戸惑っている。いったいなぜこんな事件が起こったのか。現地に取材するとヒントがいくつも見えてきた>

 昨日未明の銃乱射事件は、アメリカが抱える脅威がテロだけではないことを思い起こさせた。フロリダ州オーランドでゲイが集まるナイトクラブに男が入り込み、50人を撃ち殺した。

 保守派の政治家はテロとの戦いを強化すべきだと呼び掛ける。進歩派は銃規制の厳格化を求め、LGBT(性的少数者)コミュニティーは寛容を説く。イスラム教徒は「平和の宗教」であるイスラム教と過激派の思想を区別してくれと懇願する。

 いったい事件の本質は何なのか、本当の教訓は何なのか、どうすれば再発を防止できるのか、アメリカ人は皆、答えを探しあぐねている。

【参考記事】銃乱射が起きても銃規制が進まない理由


 バラク・オバマ大統領は昨日午後に演説し、このアメリカ史上最悪の銃乱射事件を「テロの行為であると同時に憎悪の行為」だとした上でこう言った。「とりわけ、レズビアンやゲイ、バイセクシャルやトランスジェンダーのアメリカ人にとっては大きな悲しみの日になった。犯人は、人々が友人と集い、踊り、歌い、人生を謳歌するナイトクラブを標的にした。しかも攻撃されたのはただのナイトクラブではない。そこは団結と地位向上のための場所、互いに意識を高め合い、語り合い、自らの権利を主張する場だ」

社会を分断する緊張

 オマル・マティーン容疑者(29)の動機がゲイに対する憎悪だったのか、テロ組織への忠誠のあかしだったのか、あるいは別の何かなのかはまだ不明だ。だが父親ミル・セディクはNBCニュースに、マティーンは最近、マイアミ市内で男性2人がキスしているのを見て怒っていたと話した。「キスし合い、触り合うのを見て、息子は言った。『あれを見てくれ。俺の子供の前で何てことを』」と、セディクは言う。「それから一緒にトイレに行くと、そこでも男性同士がキスをしていた」

【参考記事】ミシシッピ州で「反LGBT法」成立、広範な差別が合法に

 オレゴン州ポートランド出身のゲイの男性、ジミー・ラドスタは、こんな事件が起こるのは、同性婚は社会を破壊すると喧伝し、トランスジェンダーを捕食者扱いする政治家のせいだと言う。こうもつけ加える。「犯罪者や狂った連中、テロ容疑者にまでやすやすと銃を渡す政治家も悪い。銃犯罪は全員の問題だ」

 フロリダ州では同性婚こそ認められているかもしれないが、一方で、雇用主が同性愛者であることを理由に誰かを解雇したり、家主が部屋を貸さなかったりすることもまた合法だ。連邦最高裁が昨年、同性婚を全米で合法化する判断を示して以降も、フロリダ州はまだ何も手を打っていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メキシコ、米と報復関税合戦を行うつもりはない=大統

ビジネス

中国企業、1─3月に米エヌビディアのAI半導体16

ワールド

マスク氏、政権ポストから近く退任も トランプ氏が側

ワールド

ロ・ウクライナ、エネ施設攻撃で相互非難 「米に停戦
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中